DEVIL'S SMILE


     1

 あまりに天気が良かったので、自主休業と決め込んだ日。メイは魔法院の自室で、『さて』と大きく呟いた。
「おそーじもお洗濯もぜーんぶ終わったし、これからどーしよっかなー」
 ──ん〜買い物って言っても、お小遣いないし〜。
 ウインドゥショッピングも楽しいが、お金が無いと言う事実を、考えるとちょっと悲しい気がする。それに一人じゃ虚しさもプラスだ。
「どっか遊びにでも行こーかなー。どこ行こうかなー」
 なーんてことを呟きながらも、メイの行き先はある程度、決まっていたりするのだが。
 ──せーっかくのお休みなんだしー、遊ばないと損よねー。
「よしっ! シルフィスのとこ行こ!」
 シルフィス──シルフィス=カストリーズは、ここワーランドでも珍しい、アンヘル種族の人間だ。金の髪に緑の瞳の、とてっつもなく綺麗な人。現在その、シルフィスは、栄えある騎士団に入っている。そして……メイの大好きなヒト。
 ──やーっぱり休みの日くらい、好きな人に逢いたいってのは、オトメの正常な心理よねっ!
 ……あのぅ、メイさん、休みの日くらいって、今日は本当は休みじゃないのでは……?
「んー、二人で一緒にお昼御飯、とかってイイかも!」
 ──あ、だったら!
「おべんと作っちゃお!」
 メイの趣味の一つは料理。サンドイッチに簡単なサラダなら、そんなに時間もかからず作れるっ!
「よーしっ! このメイさんの腕の見せ所ってねー! やるぞーっ!」
 魔法院に響き渡るような、声でメイはそう言うと、いそいそ準備を始めたのだった……。

     2

 そして……向かった騎士団で。
「あ、ガゼルじゃん、やっほー!」
 入口近くで知り合いの、ガゼルの姿を見かけたメイ。大きく元気に声をかけると。
「メっ、メイっ!」
 ガゼルはちょっと慌てたように、周囲をぐるぐる見回しっ! そんなガゼルの様子にメイは、ムッ、と唇を尖らせた。
「ちょっとーなによー、アタシと会うのがそんなにイヤだっての?」
「ちがうって! あーそーだよな。アイツ、今訓練場にいるはずだもんな」
「アイツ?」
 の言葉に今度はメイ、軽く首を傾げたが、別に気にすることじゃないかと、すぐに話の方を戻し(?)た。
「つーかさー、アンタに限らず最近騎士団の人たち、冷たいよー。なーんかよそよそしいってゆーかさー。前は色々遊んだりしてくれたのに、最近アタシの姿見ると、逃げてくカンジあるってゆーかー」
「そっ……それは……メイの気のせいだと思うぜ?」
 と、言うガゼルの言葉がどーも、苦しそうなのは何故だろう? ガゼルもそれに気付いているのか、話をそらそうと慌てて続けた。
「それより! シルフィスに会いに来たのか? メイ」
 シルフィスとメイが付き合ってるのは、騎士団中にひろまっている。メイは『勿論!』と頷いた。
「今シルフィス、どこにいるか知ってる?」
「ああ、訓練場で、隊員の訓練つけてるはずだぜ」
「隊長さんじゃなくてシルフィスが?」
 メイは再び首をかしげる。普通は隊の訓練は、隊長がみるべきものだろう。それをどうしてシルフィスが?
「ああ。今日レオニス隊長は、王宮に行ってるんだ。だから代わりに副隊長のアイツがみてるわけ」
「あ、そーなんだ」
 シルフィスは先のダリス戦役で、大きな功績をあげたため、騎士団副隊長という、異例の昇進をとげたのだ。
「つーか、じゃ、ガゼルは何してんの?」
 たしかガゼルもシルフィスと、同じ隊に属してるはずだが。
「俺? 俺は街の見回り当番」
「おや、ご苦労様ー! じゃ、あたし訓練場に行ってみるね」
「ちょっ……だからメイ! 今シルフィスは忙しいって……」
 慌てて引き止めるガゼルにメイは、大きく右手をひらひらひら。
「だーいじょーぶだって! 邪魔しないからー! ちゃーんと終わるまで大人しく見てる! それじゃーねー、ガゼル!」
「メイ!」
 なおも引き止めるガゼルの言葉を、聞かずにメイは訓練場を、目指して元気に走って行き──。
「……まぁ……訓練中だからなぁ……大丈夫だとは思うんだけどよ……」
 残されたガゼルはひとりごちた。
「隊の連中は解ってるけどよ、問題は……」
 ──新入りなんだよなぁ……。
 そう、この前数人の、新人が隊に入ってきたのだ。まだ、勝手が解らぬ奴ら。
「メイの奴……結構新入りに人気あるからなぁ……」
 騎士団にちょこちょこやって来るメイは、『可愛い元気な女の子』として、新入り連中の憧れになっている。一応シルフィスと付き合ってると、知ってるはずだがそれでも側で、話くらいはしたがってるのだ。
 ──つーか、ちょっと前まで、メイに憧れてる騎士団の奴らって多かったんだよな……。
 ちょっと前……それはシルフィスが、男に分化する前のこと。
 ガゼルはふーっと小さな溜息。それから何故かちょっと遠い目。
 ──あー……あの頃は良かったなぁ……。
 メイを囲んでわいわいがやがや、楽しく騒いでいられたし……何よりあのシルフィスの、本性(?)を知らずにすんだのだから。
「ま、新入りには口で言うより身体で覚えろってやつかも」
『それじゃ俺は見回り見回り〜』ガゼルはそう続けると、街へ向かって歩き出した……。

     3

 さて、訓練場の方では。
「やっほー!」
 場違いな女の子の声に、訓練場内ちょっとびくうっ! そりゃあそうだ、騎士団なんて、普通女の子は来ない。おまけにその訓練場に、堂々と入ってくるなんて、考えてみれば前代未聞だ。びくつく原因はそれだけじゃないのだが。
「やっほー、シルフィスー! 遊びに……はマズイか。見学に来たよー!」
 そう言いながら入って来たのは、可愛い元気な声に似合いの、小柄で活発そうな少女。勿論可愛さもナカナカのモノだ。それを見た古株隊員は、思わずさーっと青ざめっ! 反して新入り君達は、ちょっと嬉しそうな顔だ。
「メイ」
 と、訓練場の中央で、稽古をつけてたシルフィスが、手を止めメイを振り向いた。
「今日はどうしたんですか? メイ。魔法院は……」
「ん〜、天気がよかったから、自主休業にしちゃったー」
 普通だったらこんな台詞、聞けば呆れるところだろうが、このメイさんにはそれが似合う。シルフィスはくすっ、と小さく笑った。
「あなたらしいですね、メイ。で、ここに来たんですか?」
「うん。あ、やっぱ迷惑?」
「とんでもない。ただ、今私は隊長の代理で……」
「解ってる。訓練終わるまで待ってるから大丈夫だよ。あのね、今日サンドイッチ作ってきたんだ。あとで食べようね!」
「はい。楽しみにしてます」
 シルフィスは嬉しそうに笑うと、稽古の方に戻って行く。メイはそのまま大人しく、訓練場の端っこへ行った。
「あ……メイ……さん、椅子、どうぞ」
 そこで新入り君の一人が、メイに椅子を持ってくる。メイは笑顔でそれを受けた。
「あ、ありがと!」
 途端にその新入り君と、メイを見ていた他の新入りも、見事な程に真っ赤に赤面! 勿論メイは気付いちゃいないが。
「ごめんね、訓練中断させちゃって。いやー隊長さんがいなくてラッキーだったわー。隊長さんがいたら、怒られちゃうもんね」
「レ……レオニス隊長は、厳しい方ですから」
「でも、隊長さんって、頼りがいがあるしカッコイイよねー。もーちょっとなんて言うかなー、柔らかくなってくれればいーんだけど。ま、柔らかい隊長さんなんて、隊長さんじゃないか」
『想像したらちょっとサムイよねー』 メイは続けながら笑う。そんな話をしている間に、メイの周囲には新入り達が、遠慮がちにだが集まって来た。
「そう言えばみんな、騎士団に入ったばかりなんだよね? どう? もう慣れた?」
「は……はい! 隊長も副隊長も先輩も、みんなよくしてくださいます!」
「そ。よかった。色々あるとは思うけど、へこたれないでがんばってね!」
「はっ、はい!」
「でも、あんまりがんばりすぎて怪我とかしちゃだめだよー。ま、アタシがいる時だったら、すぐに治癒魔法かけてあげるけど」
 その言葉に新入り君たち、なぜか少し色めき立ちっ!
「メ……メイさんが……ですか?」
「うん。あー、もしかしてアタシの魔法の腕、疑ってるなー? これでもちゃーんと魔法使えるんだからね!」
「いえっ! メ……メイさんが治してくださるなんて……光栄ですっ!」
 その瞬間。
 シュン! ドガッ!
 と、いう音ととも、メイの一番近くにいた、新入り君のそばギリギリに、剣が一本突き刺さった。
「………………」
 それはホントにギリギリスレスレ。一歩間違えればざっくりの位置。ついで聞こえて来た声は。
「あー、すみませんー。手が滑ってしまったみたいです」
 どことなーく凄みのある、笑顔を浮かべたシルフィスもの。
「ふっ……副隊長……」
「怪我ありませんでしたか? メイ」
 青ざめる新入り君達を尻目に、シルフィスはメイに向かって言う。
「うん、アタシは大丈夫。でも、どしたの?」
「すみませんでした。汗で手が滑って、剣が手から抜けてしまったみたいです」
 ……いや……それは絶対違うぞ……。
 と、いうのは訓練場に、いたメイ以外の全員の呟き。
「シルフィスって結構ドジだもんねー。気をつけなきゃ駄目だよ?」
「はい」
 それからシルフィスは壁に刺さった、剣を掴んで引き抜きがてら、新入り君たちをぐるりと見回し。
「だめですよー、みなさん。そんなところにいたら、今度は本当に怪我をしてしまうかもしれませんからねー」
 新入り君たち血の気が引きっ! それが暗に《メイのそば》だと、気付くだけの分別(?)は一応彼らにもあったので。
「これから気をつけてくださいねー」
 念を押すようにシルフィスに言われ、新入り君たちは慌ててこくこく。シルフィスはそれを確かめると、自分は稽古に戻って行った。同時に新入り君達はすささっ……。メイの側から離れて行く。
「? どしたのかな、みんな」
 一人訳が解っていない、メイは首を傾げたが、それ以上は気にもかけずに、訓練が終わるのを待ったのだった……。

     4

 そして、訓練後。
「こっ……恐かった……恐かったっすよーーーーっ!」
 今日の犠牲者、新入り君たち、ほとんど半泣き状態で、見回りから戻ったガゼルに言った。
 しかしガゼルは実に冷たく。
「それはお前らが悪いんだからしょーがないな」
「俺たち……ですか?」
「ああ、シルフィスとメイが付き合ってるってのは、お前たちだって解ってただろ?」
「それは……そうですが……」
 しかし話をするくらい……。
「シルフィスは、ことメイが関わると、ブラックモードに切り替わるんだよ」
 ブラックモードって、そんな、ガゼル……。
「その程度ですんで良かったよ。俺、メイとちょーっと親しそうに話してただけで、シルフィスに再起不能にされた奴、何人も見てるからな」
「………………」
「闇討ちにあった奴なんて、数え切れないくらいいるし」
 ……とゆーか、それが解ってるなら、どうにかしようと思わんのか? ガゼル……。
「おかげで《メイをみたら、シルフィスをさがせ! さもなきゃすぐにその場から去れ!》が騎士団の隠れたスローガンになってるくらいだしな」
 どうやら入口のところでガゼルが、メイと会った瞬間に、周囲を慌てて見回したのは、シルフィスの姿をさがしたせいらしい。
「ま、そーゆーわけだ。これに懲りたら、お前らもメイに近付くのは遠慮することだな」
「……ハイ……」
 肩を落した新入り君たち。以後、彼らがメイに近付くのは、めっきり少なくなったそうだが……。

     5

 数日後。
 やっぱり騎士団のシルフィスのところに、遊びに来ていたメイが言った。
「ね、シルフィス」
「はい?」
「最近……新入り君達が、アタシのこと避けてる気がするんだよね……」
「そうですか?」
「うん。てゆーか、騎士団の人たちみんなそーなの。それか……アタシと話をする時、なーんかすっごく周囲を気にしたり、見回したりするのよ。ガゼルなんかもーロコツに。ま、その後はみんな話に付き合ってくれるけど」
 メイの言葉にシルフィスは内心。
 ──ナルホド。
 彼らが周囲を気にする理由は、ちゃんと心当たりがある。
 ──そういうことですか。
 しかしシルフィスは優しく微笑み。
「それはあなたの気のせいですよ、メイ」
「そーかなぁ……」
 どうも釈然としないような、メイの肩をシルフィスは抱き寄せた。
「その分、私があなたのお相手をしますから、メイ」
「……シルフィス……」
「それとも……私だけでは足りませんか……?」
 ちょっと悲しそうに言えば、メイは慌てて両手を振り。
「そっ、そんなことない! じゅ……充分……デス」
「……メイ……」
 そんなメイはとても可愛く、シルフィスは愛おしそうに微笑むと、そっと顔を近付けて──。

     6

 ちなみに……後日談が一つ。
「ガゼル」
 騎士団宿舎を歩いていたガゼル、呼ばれて後ろを振り向くと、そこに立つのは副隊長。
「ん? 何か用か? シルフィス」
 副隊長に出世はしても、ガゼルにとってシルフィスは、見習い時からの仲間である。態度はとても気さくなもの。それは勿論シルフィスも同じだ。
「いや、用と言うほどではないんだけどね、一応話しておこうと思ったものだから」
「へ?」
 それからシルフィスは内緒話を、するようにガゼルに近付いて。
「いくら私がいないからと言って、安心はしない方がいいな」
 ──……は?
「シ……シルフィス……?」
「それと、あまりメイの前で露骨にキョロキョロしないで欲しいんだ。メイが気にするから」
 ──そ……それって……。
 思わずガゼル、顔面蒼白。
「話というのはそれだけ。ああ、よかったら他の隊員のみんなにも、話しておいてくれないか? よろしく」
 にーっこり、だが凄みのある、笑顔を浮かべてシルフィスは言うと──なまじ顔が綺麗なだけに、その迫力は半端じゃない──ガゼルの前を去って行き……。
「……悪魔を……見たと思った……」
 残されたガゼルは茫然と、そう呟くしかできなかった……。

 それからのち、騎士団員、メイの姿を見た瞬間、逃げるようになったそうな……。

                              DEVIL'S SMILE 了


『Real May's』様の人気投票作品です。
前回のセイリオスに続いて、シルフィスが一位を獲得した時に
参加させていただきました。
結構時間なくて(オフライン締めきりなどで)パニくって書いていたような
覚えがあるんですが…… (これを喉元過ぎれば何とやらと言う/笑)
しかし……シルがブラックだよ……激ブラックだよ……。ガゼル、すまん!
これじゃまるで八●さん……ゲフゲフ。
でも、声も同じだしなぁ……ある意味似ているのかもしれない。
シル、恋人になってもメイには敬語使いそうだしなぁ……(笑)
ま……結論としては、石田さんの声は腹黒キャラが似合うということで……(オイ!)
あ〜……でも『エターニア』のリッドは違ったか……(と呟きながら去る)

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