FRIEND(瑞希編)




「Salut! さん。あなたもお買い物?」
 日曜日、一人で買い物に出掛けたは、聞き慣れた声に振り返った。見ればそこに立っているのは、須藤財閥お嬢様で、の友達でもある瑞希。
「あ、須藤さん。え〜っと、須藤さんもお買い物?」
「Oui。たまには普通の人みたいな買い物をしてみるのもいいかしら、って」
 普通の人みたいと言いながら、瑞希の後ろには荷物を持った、ギャリソン伊藤が控えている。どう見たって普通じゃない。しかしは気の抜けた、笑みを浮かべて瑞希に答えた。
「あ……あはは……そーなんだ……」
「ええ、そう。でも何だかミズキ疲れちゃった。買い物でこんなに歩いたのって、ミズキ初めてだし」
 そう言えばいつも側にある、高級外車が見当たらない。本当に歩いて回っているらしい。
 ──あ、だったら。
「ね、この先に美味しいケーキが食べられるお店があるよ。一緒に一休みしていかない?」
「あ、それはミズキが言おうと思ってたのに!」
 可愛い瞳で瑞希は睨む。は思わずくすっ、と笑った。
「でも、もうちょっと歩くことになっちゃうけど……」
「あと少しくらいなら、我慢してあげてもよくってよ」
「じゃ、行こう」
 二人は並んで歩き始める。だが、少し行くと、何があるのか、大きな人だまりにぶつかってしまった。それも若い女性ばかりの。
「……何かあるのかな?」
「そんなことはどうでもいいの! ミズキの行く手を阻むなんて、許さないだから! ギャリソン!」
 二人の邪魔をしないようにと、少々離れた位置にいた、ギャリソン伊藤が飛んでくる。その間ほんの一秒足らず。さすがだなーと変なトコ、は感心してしまった。
「何でしょう、瑞希お嬢様」
「この子たち邪魔。どうにかしてちょうだい」
「は」
 ──どうにか……って、どうにかなるのかな……?
「まったく……」
 ギャリソン伊藤が去った後でも、瑞希はぶつぶつ言っている。やはりお嬢様にとって、こういうことは我慢ならんようだ。
 ──悪いことしちゃったかな……。
 自分がお茶にさそったり、しなければ良かったのかも知れない。
「……ごめんね、須藤さん」
「何であなたが謝るの?」
「だって……余計疲れさせちゃったかな……って」
「あら、ミズキはこれしきのことで疲れたりしませんことよ。悪いのはあなたじゃなくて、この子たち!」
 瑞希は目の前をふさいでいる、集団を憎々しそうに見る。も何気なく集団を見た。
「でも、ホントに何があるんだろうね」
 これだけ人を集めているのだ。何かのイベント、もしくは撮影……。
 ──あ、もしかして。
 もしも撮影だったとしたら、心当たりが一つある。それは……。
 ──葉月くん……かも。
 現在一押し高校生モデルと、話題になってる葉月珪は、のクラスメイトである。とは一緒に帰ったり、遊びに行ったりしている仲だ。
 ──そういえば今日、仕事が入ったって言ってたもんな……。
 本当は今日も葉月と一緒に、新しく出来た臨海公園の、大観覧車に乗るはずだったが、急に仕事が入ったと、昨日携帯に連絡が来たのだ。もしかしたら、これがそうかも……。
 ──見えないかな……。
 はぴょんぴょん飛び上がり、この人だまりの向こうで何を、しているのかを見ようとした。だが、やっぱり見ることはできない。そんなを呆れたような、冷たい視線で瑞希は見て言う。
「……何をしているの? さん」
「え……あ、何してるか見えないかなーって……」
「見えるわけないじゃない。あなたもこんなものに興味があるの?」
「え……興味って言うか……何かの撮影かなーって……」
 ここで葉月の名前を出すには、何だか照れが出てしまうので、はそう、言葉を濁した。しかし瑞希はピン! ときたらしい。
「そんなに見たいのなら、中に入ってしまった方がよくってよ」
 言うと瑞希はの右手を、いきなりぐいっ! と掴んで来た。
「須藤さん?」
「行きますわよ」
 ──え?
 行くってどこへ? と思う間もなく、瑞希は目の前の集団に叫んだ。
「おどきなさい! あなたたち!」
 凛とした瑞希の声が響く。集団を作っていた女の子達が、不愉快そうに振り返ったが、相手は財閥お嬢様。威厳と気品が全然違う。その瑞希に圧倒されて、彼女達は一瞬ひるんだ。その隙に瑞希はの手を引き、中にずんずん入って行く。
 ──須藤さんって……すごい……ってゆーか、ギャリソンさん、必要無いんじゃあ……。
 やはり変なトコ感心しながら、は瑞希に引きずられ、いつの間にか最前列へ。
 ──あ……やっぱり。
 そこはやはり撮影現場。数人のスタッフが忙しそうに、何やらバタバタ動いている。その中で少し落ち着いた、渋めの服を着た葉月が、カメラマンと何やら話していた。どうやら打ち合わせをしているらしい。
 ──葉月くん……。
 やっぱりかっこいいなーなどと、思いながらは葉月を見つめた。仕事をしている時の葉月は、いつもよりも大人びて、何だか遠い人のようだ。
「葉月の撮影だったみたいね、さん」
 瑞希の声は結構響く。その声は葉月まで届いたのだろう。葉月はこちらを振り向いた。
 ──あ、気付かれちゃったかな。
 それから葉月はスタッフに、何やら声をかけてから、こちらに向かって歩いて来た。と瑞希の周囲からは、当然黄色い悲鳴が上がる。同時には瑞希に背中を、押されて前によろけ出てしまった。同時に目の前から声がする。
「お前か……今日はどうしたんだ?」
 顔をあげればそこには葉月。は慌ててそれに答えた。
「あ……えっと……ちょっと買い物に来たの」
「そうか。あ……今日は悪かった」
「え?」
「大観覧車、乗りたかったんだろう?」
 ポシャった約束の事を言っていると、解っては慌てて手を振る。
「い……いいよ。だって、葉月くんお仕事じゃない。大観覧車は逃げないし」
 ……観覧車が逃げたら大変だろ、……。
 そんなの言葉に葉月は、小さく微笑みながら言った。
「でも、俺も残念だった。また……今度行こうな」
「あ……うん!」
 少しは自分との約束を、気にしてくれていたのだと解って、はすごく嬉しくなる。我ながら単純だとは思うが、それだけでとても幸せな気分。
「そう言えばお前……誰かと一緒じゃなかったか?」
「え? うん、須藤さんと……あ、あれ?」
 気が付けばさっきまで隣にいた、瑞希の姿が見えなくなっている。慌てて周囲を見回せば、少々離れたところでこっちを、見ながらにやにやしている瑞希。
「……いつの間に須藤さんったら……。あ、葉月くんお仕事中だよね、邪魔してごめんね」
「いや……今休憩中だし……」
 そこで周囲の女の子達から、不満そうな声があがった。
「何であの子、葉月くんと話ししてるの?」
「図々しいよね!」
「何様だと思ってんのよ!」
「たいして可愛くもないのに、よく葉月くんと一緒にいられるよね!」
 ──………………。
 は思わず小さく苦笑。葉月と一緒にいると時々、こういう言葉を投げられる。でも……それは仕方がないと、自分でもある程度納得していた。もしも、自分が彼女達の、立場なら同じこと思うだろう。葉月に見劣りしないような、美人なら納得できるだろうが、こんな見るからに普通の子である、自分じゃそう思われるのも当然。だが。
「……誰だ……」
 葉月がかなり鋭い目つきで、その声のした方向を睨んだ。慌ててはそれを抑える。ここはファンの子達の前。あまりファンの印象を、悪くするようなことはしない方がいい。
「あ……あたし、もう行くね。これから須藤さんとお茶することになってるの。だから……」
 しかしいきなり今度は当の、瑞希が後ろからを呼んだ。
「ちょっと、さん」
「え……あ、須藤さん」
 この子は神出鬼没だなー……さっきまであっちにいたはずなのに……。そんなことを思いながら、が瑞希に返事をすると。
「あなた、あんなこと言われて黙ってるつもり?」
 ──えー……っと……?
 あんなこと……とはもしかして、さっきの女の子達の事か?
「ん……でも、別に……」
「冗談じゃないわ!」
 ──……はい?
 何で瑞希が怒っているのだ?
「あ……あの……須藤さん……?」
「あんなこと言われて黙ってるなんて、ミズキ我慢できない!」
「あ……あのね、須藤さん……」
 突然怒り出した瑞希に、何が何だか解らぬ。とにかく彼女をおさえようと、慌てて両手を出しながら言ったが、そんなことでおさまる瑞希じゃない。
「いい、さん、あなたはミズキの友達なのよ? あなたがあんな風に侮辱されたってことは、ミズキが侮辱されたのと同じなのよ?」
 ──……え……?
 何がどうしてそういうことに……? ってゆーか、それじゃ瑞希と、は一心同体か……?
 全然訳がわからずに、が茫然としていると、その手を瑞希ががっしり掴んだ。
「行きましょう、さん」
「あ……うん、そうだね。早くしないと、人気のケーキ、なくなっちゃう……」
「ケーキ屋さんなんかじゃなくってよ!」
「……はい?」
 だって瑞希はこれからと、お茶する約束だったのでは……?
「これから須藤家御用達のエステサロンとデザイナーのところに連れて行ってあげる! もう、あんなこと言わせないように、あなたを改造してあげるんだから!」
 ──………………改造?
「ちょっ……須藤さん! 何がどうしてそういうことに……」
「決まってるじゃない! もう二度とあんなこと言わせないように、あなたをミズキみたいな素敵なMadomoiselleにしてあげるの!」
 ──……それって……無理だと思う……。
 ……って、はじめから諦めるか、……。
「それに、葉月だって、が素敵なMadomoiselleになったら嬉しいでしょう?」
 ──……え……?
 思わずは葉月を見た。葉月と言えばこの出来事に、付いて来てないのかぼーっとしたまま、と瑞希を眺めていて……。
 ──やっぱり……葉月くんもそうなのかな……。
 これでもは自分なりに、お洒落や流行を勉強して、少しでも綺麗になろうとしたのだが、やっぱりそれだけじゃ足らないのかも……。
「葉月珪! あなたも何か言ったらどう?」
「あ……」
 瑞希に怒鳴られ葉月はようやく、口を開いてボソリと言った。
「別に……かまわない」
「え?」
なら……俺はかまわない」
「………………」
 葉月の答えに瑞希は沈黙。そしては思わず赤面!
「……は……葉月くん……」
 そこでスタッフが葉月を呼んだ。撮影が再開されるらしい。
「悪い……もう行く」
「あ……うん、こっちこそごめんね。お仕事頑張って!」
「……ああ……」
 葉月は仕事に戻って行く。後ろ姿もかっこいいなーと、はぼーっと葉月を見送り……。
「……ハァ……」
 ついで聞こえた瑞希の溜息に、首を傾げてそちらを見た。
「須藤さん?」
「……やってられない……」
「え?」
「やってられない、って言ったの! もう……なんでミズキがこんなところでアテられなきゃならないのっ!」
 それにはは思わずきょん。
 ──アテられ……って……?
 ……自覚がないのか、……。
 それから瑞希はギャリソンを呼ぶと、何やら小声で耳打ちした。ギャリソン伊藤は何故かちらりと、を見てから大きく頷く。
 ──……どうか……したのかな?
 しかしギャリソン伊藤はそのまま、瑞希とに頭を下げると、何も言わずに去って行った。
「……? ね、須藤さん」
「なに?」
「ギャリソンさん、どうしたの?」
「さっきの女の子達を捜しに行ったの」
「ど……どうして?」
「報復よ」
 ──……ほ……報復……?
「それって……やっぱり……」
 ──……さっきの女の子達ってことだよね……?
「当たり前じゃない! さっきも言ったでしょう? ミズキの友達を侮辱することはミズキを侮辱することなの! 言わばミズキに喧嘩を売ったってこと! 黙ってなんかいられないわ! それなりの代価を支払ってもらわないと!」
 『おーっほっほっほっ!』と笑う瑞希は、少し……いや、かなりヤバイ。
 ──……なんか……こ……恐いんですけど……。
 思わず腰を引く。しかし瑞希は逃がさん! とばかりに、の右手をぐいっ! と掴み。
「さぁ! さん、ケーキ屋さんへ行きますわよ! 今日はミズキの気がすむまで、御供をすることを命じます! いいこと!」
「は……はぁ……」
「さぁ! 行きましょう!」
 瑞希はの手を掴んだまま、ケーキ屋さんへと歩いて行く。そして瑞希に引きずられるは……。
 ──……あんまり酷い報復じゃありませんように……。
 そう思わずにはいられなかった……。


 数日後。
「ね……須藤さん、あの時の報復って……何をしたの?」
「あら。たいしたことじゃなくってよ。ただ、ヘアサロンに招待して、髪の毛をぜーんぶ刈らせて丸坊主にさせただけ」
「………………」
「ミズキを侮辱したんだもの、これくらいですんで良かったと思ってもらわなきゃ」
 ……いや……きっと彼女達は、全くそんな気はなかったと……。
「これでもう、二度とミズキに喧嘩を売るなんて馬鹿なことをする人間はいなくなると思うわ!」
 ……だから、言われたのはで、瑞希様じゃあないんですが……。
 しかしこの瑞希には、そんなこと言ってもききそうにない。は取り合えず同意をした。
「……う……うん、そう……だね」
「それよりさん! 葉月はあんなこと言ってたけど、今度ミズキがparisからデザイナーを呼ぶ時に、あなたも一緒に見てもらいますからね! もう、絶対誰にもあんなこと言わせないんだから!」
「……は……はぁ……」
 やたら燃え上がる瑞希を前に、に断る術はなく……。


 その後。
 幸か不幸か須藤財閥、お嬢様と一心同体(?)の。このことに恐れをなしたのか、その後葉月と一緒にいても、攻撃されることはなくなったが……。
 何故かを改造(?)することに、燃えてしまった須藤瑞希。ことあるごとにを連れ出し、ほとんど毎日占領状態。とうとうキレた葉月が瑞希に、喧嘩を売ろうとしたところを『丸坊主にされちゃうからやめて!』と、止めるの姿があったとか……。

                             FRIEND(瑞希編)了


ええと……はい、やってしまいました『ときメモGS』ドリーム。
つーか……コレ、ディフォルト名、俺の別ジャンの連中、笑ってるんだろうなぁ……。
しかし……葉月×さんとはいえ、全然あまくないのがもう、
やつかさんらしいとゆーかなんとゆーか……あははは……。
ゲームの瑞希様は、かなり好きな女の子です。激可愛くて!
しかし……ちょっと暴走気味ですね(笑)これじゃまるで
瑞希×(←マテ)のよう。
さぁ! 葉月くんは瑞希様の手からさんを取り戻せるのか!
待て! 次号!(←嘘嘘。ないない/笑)

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