FRIEND(奈津実編)




〜」
 授業も終わり、さて帰ろうと、教室を出たの背後から、元気な声が聞こえて来た。は笑顔で振り返る。
「なっちん」
「ね、今帰り?」
「そう。なっちんは? 部活?」
「ううん、今日は休み。ね、一緒に帰らない?」
「うん! 帰ろ!」
 は大きく頷くと、なっちん──こと藤井奈津実と、一緒に廊下を歩き出した。
「そういえばさー、、アンタ結構有名人だよね」
「ふえ?」
 ──有名人?
 はちょっと顔をしかめる。自分のドコが有名人? この学校には他にも沢山、有名人がいるじゃあないか。世界的に有名な、天才アーティスト三原色。大財閥、須藤財閥の、お嬢様である須藤瑞希。それから高校生モデル、葉月珪などそりゃ色々。そんな中で自分みたいな、なーんの取り柄もないやつが、なんで有名なんだろう。
「何言ってんの? なっちん。どうしてあたしが有名なの?」
「《恐いもの知らずの》」
 ──はい?
 思わずはきょんとした。《恐いもの知らず》というのは何? それを言うなら奈津実の方だ。何しろあの、はばたき学園、アンドロイド教師(?)氷室零一に、黒板消しを落したり、落とし穴掘ったりできるのだから。
「……なっちん……あたし、なっちんにだけは言われたくない……」
「なーんでよー。このか弱い奈津実ちゃんのどーこが恐いもの知らずだって?」
「全部」
「あ、言ったな! !」
 即答すれば直ぐ様奈津実は、の首を締め上げっ! は慌てて奈津実の腕を、叩いて降参の意を示した。奈津実はすぐに腕を離す。
「でも……ねぇ、なっちん、どうしてあたしが恐いもの知らずなの?」
「あれ? マジで自覚ナシ?」
 ──……つーか、あったら聞いてないって……。
 は心の中で突っ込むと、『うん』と大きく頷いた。
「ぜんっぜんないけど? あたし……何か変なことしてる?」
「変なことってゆーか、アンタさ、あの葉月と一緒に帰ったり、遊びに行ったりしてるじゃん」
「うん、してるけど?」
 入学式の日、学校裏の、教会で出会った葉月珪。おまけに弟、尽の陰謀(?)で、電話番号が解ったので、時々誘って出掛けているし、帰りに見掛けりゃ声かけて、一緒に帰ったりしているが……。
「それが、何?」
「それが……って、アンタ、もうそれがすでに恐いもの知らずってこと」
 ──ふえ?
「んーと……ってーことは……《恐いもの》って、葉月くんのこと?」
「そう」
「……どして?」
 なんで葉月が《恐いもの》なのだ? 葉月のどこが恐いのだろう。
「だーって、アンタ、あの葉月珪だよ? そりゃー確かに美形だけどさ、なーんか偉そうってゆーか、人見下してるってゆーか、そーんな葉月だよ? 遠くで見てるだけならいいけど、近付こうなんて普通思わないって!」
 ……藤井奈津実……そこまで言うか……。
 さしものもちょっとムッ。
「なっちん、それ酷すぎ」
「あ、怒った? ごめんごめん。でも本当のこと。その証拠に、アタシ、アイツが以外の人間と一緒にいるとこなんて、見たことないもん」
「……そ、そなの?」
 言われても思い返す。そういえば……確かに葉月はいつも、一人でいることが多い。
 ──で、でも。
「あのね、なっちん」
「ん?」
「葉月くんって、みんなが思う程冷たくもないし、恐くもないよ? 見た目がすっごい美形だから、そう見えちゃうのかも知れないけど……」
「そんだけじゃないって。アイツ、声掛けたって『……で?』とか『……だから?』とかしか言わないもん」
 ──そうかなぁ……。
 確かに喋る方じゃあないが、と遊びに行く時は、それなりにちゃんと喋りはするが……。
「そんなことないと思うけどなぁ……話し掛ければ答えてくれるよ?」
「そーおー?」
 そんな話をしているうちに、昇降口に到着した。奈津実とはクラスが違うので、一旦別れて再び合流。
「で、さっきの話だけど」
 合流した途端に奈津実が言った。
「アンタの場合、なんか《恐いもの知らず》ってゆーより、恐いって感覚がマヒしてるんじゃないか、ってアタシ思うわ」
「……なっちん……あのさ……」
「ん? なに?」
「さっきからずーっと思ってたんだけど……もしかしてなっちん、あたしに喧嘩売ってる……?」
「え? だってホントのことじゃん」
 あっさり言われてはがっくり。この奈津実には勝てそうにない。
 と、そこで前方に、当の葉月の姿を認めた。は一つ思い付きっ!
「ねぇねぇ、なっちん、だったら、試しになっちんも葉月くん誘ってみなよ」
「え?」
 思わぬ提案に奈津実はぎょっ!
「何言ってんの、
「だってほら、丁度あそこに葉月くん、いるし」
「いるからってなんでそんなことになるのよ!」
「だからー、みんな葉月くんのこと、誤解してるんだって。ちょっと近寄り難く見えるから、みんな敬遠してるけどそんなことないよ? だから、あたし以外の人が誘ったって、OKくれると思うよ」
『マジで思っているのか? お前は』は、奈津実の心の中の呟き。しかしはエスパーじゃない。心の中の呟きは、聞こえないから解らないので、そのまま奈津実の背中を押した。
「ね、やってみなって。あたし、隠れて見てるから!」
 ……何で隠れるんだ、……。
「あ……あのさ、……」
「はーい! いってらしゃいー!」
 はそのまま奈津実を置いて、だーっ! とその場を駆け出しっ!
「ちょっ……っ! ってばーっ!」
 叫ぶ奈津実の声聞きながら、は手近な隠れ場所を、捜すことにしたのだった……。


 ──ってかさー……なーんでこんなことになっちゃったかな……。
 と、いうのは残された、奈津実の心の中のぼやき。
 ──単にからかって、遊ぼうと思っただけなのにー。
 しかしここで逃げるのは、藤井奈津実の名がすたるっ! こうなりゃ意地でも葉月に声かけ、の間違いを正そうじゃないか!
 そう奈津実は決心すると──かなりズレてる決心だが──ずんずん葉月に近付いた。そして。
「葉月!」
 声をかければ無言のまま、自分の方を振り返る葉月。
 ──うっ……。
 無表情というよりは、どっちかってーと不機嫌顔。奈津実は一瞬怯んでしまった。
 ──……やっぱアンタってすごいわ……。
 こんな葉月に平気な顔で、誘いをかけることが出来るなんて。
「……ん?」
 不機嫌顔をそのまんま、声にしたようなそんな調子で、葉月は奈津実に向かって言う。奈津実は再び怯んだが、やっぱりここで怯んだままじゃ、奈津実さんの名がすたるっ! 意を決して口を開いた。
「あ……あのさ……一人? だったらさ……い……一緒に……帰らない?」
 ──やったっ! 言えたっ!
 ……言えた、ってそんな、奈津実さん……。
 ──さぁ! 断れ! 断るんだっ! 葉月っ!
 奈津実は心の中で切実に、絶叫(?)しながら返事を待った。その奈津実の願いが通じたか、葉月は無表情のまま。
「……やめ……」
 ──よしっ!
 だが、そこで言葉が途切れた。見れば葉月は奈津実ではなく、後ろの方を見つめていて。
 ──?
 ついで葉月はふっ……と笑った。
 ──……笑っ……た……?
 葉月珪の笑顔なんて言う──何しろ雑誌のグラビアでさえ、笑顔なんてほとんどない──とんでもないもの見てしまった、奈津実はぴきっ! と固まりっ!
 そんな奈津実に葉月は言った。
「……アイツも……一緒なのか……?」
 ──アイツ?
 言われて奈津実は振り返る。するとそこには低木の茂みから、ひょっこり顔を出してる
 ──…………あんたバレバレだよ……。
「……アイツも一緒なら……かまわない……」
 ──はぁ?
 どうやら葉月、も一緒に、帰るならOKということらしい。思わず奈津実は葉月をまじっ!
 ──……コレって……。
 もしかしてもしかしなくても、コイツはあの、のことを……?
 ──……へぇ……。
 そういうことなら解る気がする。葉月が誘いに応じているのも。
 ──……なーる。
 奈津実は思わず葉月の背中を、バン! と大きく叩いてしまった。何だか一気にこの男が、身近になったような気がして。
「んじゃ、ちょっと待ってね。連れてくるから」
 それから奈津実は相変らず、茂みに隠れてる(?)へ走った。

「あ、なっちん。よくあたしがここにいるって解ったね」
 ……本当に隠れてるつもりだったんだな、……。
「で、どうだった?」
 期待にあふれんばかりの瞳で、は奈津実を見つめて尋ねる。奈津実はにっ、とに笑い。
「OKだって」
「でしょ! あたしの言った通りだったでしょ?」
「ただし、アンタも一緒ならね」
「ほえ?」
「だーから、葉月もアンタの姿見付けたの。で、アンタが一緒なら帰ってもいいって。ってなわけで、責任とってアンタも来ること」
「え……だって、それじゃ意味ないよ……。なっちんが誘ったんじゃない。あたしが行ったら……」
「つーか、葉月にとってはアタシじゃなくてアンタがメインなんだって」
「え? メイン? なにそれ?」
 きょん、として聞き返すの様子に、奈津実は肩をがっくり落した。
 ──葉月……アンタ、先は長いよ……。
 このニブチンを自覚させるには、相当な努力が必要かも……。
「とにかく! 来るっ!」
 業を煮やした奈津実はぐいっ! と、を茂みから連れ出すと、待ってる葉月へ歩き出した。
「はい、お待たせ」
「あ……葉月くん……えっと……ども……」
「………………」
 何やら気まずそうには、葉月に向かって挨拶をする。葉月の方は無言だったが、ほんの少しだけまとう空気が、柔らかくなったような感じだ。奈津実は軽く肩をすくめた。
 ──一応コイツも感情っての、あるんじゃん。
 ……奈津実……お前、葉月のことを、いったい何だと思ってたんだ……。
 ──でも、そしたらアタシ、邪魔だよね。
 はともかく葉月にとっちゃ、自分は単なる邪魔者だろう。これは何か切っ掛けを作って、そうそうに退散した方がいいか。
  と、そこで丁度良く、姫条の姿が目に入った。
 ──お、ナイスタイミング!
 直ぐ様奈津実は姫条へダッシュ!
「まどかーっ!」
「ああ? うお! なんや、暴力女かいな!」
「あ〜? だーれが暴力女だって?」
 奈津実はそのまま姫条の頭を、持ってたカバンでスッコーン!
「痛いわっ! いきなり何すんねん! 自分!」
「アンタが悪いんでしょ! つーか、帰るよ! まどか!」
「おぅ……って、何で自分、勝手に決めとんのや!」
 そこで姫条は奈津実の行動に、呆気にとられてこっちを見ている、葉月との姿に気付いた。
「お、ちゃん! 何してん? あ、もしかして自分と一緒に帰る……」
「んなわけあるか」
 再び奈津実、姫条をスッコーン!
「自分! 人の頭を何だと思ってんねん! さっきから何度も叩きよって!」
「何度も、ってまだ二回でしょ! いーからアンタはアタシと帰るの! じゃーねー! ! アタシ、まどかと一緒に帰るから!」
「え……ちょ……なっちん!」
 引き止めようとするだが、すでに奈津実は姫条を拉致(?)して、すっかり二人で帰る態勢。
「それじゃ、葉月〜! 〜! がんばってね〜!」
 最後に奈津実はそう叫ぶと、姫条を引きずって行ってしまい……。


「がんばる……?」
 奈津実の言葉に首を傾げたのは、取り残された(?)の方。
「なっちん……何言ってんだろ……? 葉月くん、解る?」
「……さぁ……」
 そう言いながらも葉月は少し、機嫌がいいのか微笑んでいる。
「……葉月くん、何かいいことあった?」
「何でだ?」
「ニヤニヤしてる」
「………………」
 いつもが葉月に言われる、言葉をそっくりそのまま返せば、葉月の方は思わず沈黙。そして。
「……帰るか」
「うん」
 二人は並んで歩き始めた。


 《恐いもの知らずの》と、その《恐いもの》である葉月珪とが、奈津実の影の働きで、《天下無敵の天然バカップル》(ただし、は自覚なし)に、立派な進化(?)をとげるのは、もう少しだけ後の事……。

                           FRIEND(奈津実編) 了


はい、奈津実編です。
ん〜この子は書きやすい子ですねぇ……何気に姫条くんとのコンビが気に入ってます。
そういえば……奈津実ちゃんがヒムロッチに落とし穴掘るのって……そういうのがある
らしいというのは聞いたんですが、実際にゲームで見たことない、やつかさんです。
しかし……やっぱりこれも甘くない……あうあう……。ごめんなさい、さん!
つ……次こそは天然バカップル目指しますので!(←ホントか? つか、次っていつよ?)

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