こちらの駄文はSLAM DUNK二次創作『PANICシリーズ』の番外編となります。
流川と花道の間には二人の子供がいる設定です。
ご了承いただいてから、先にお進みくださいませ。














『HAPPY BIRTHDAY』





 今日は嬉しい誕生日。
 流川・桜木一家の家では、朝からバタバタ騒いでいた。
 それというのも今日は一家の、長女、檀の誕生日なのだ。
 ってなわけで。



「……オイ……まだなンか……?」
 子供部屋の前に立ち、言っているのは流川楓。これでも一家の大黒柱だ。
「もーちょっとだから待ってろって」
 部屋の中からする声は、兼業主婦である花道。流川がこれに顔をしかめる。と、隣に立つ長男、棗が父をたしなめた。
「女の子の支度には時間がかかるものでしょ? おとーさんにはそういう経験がないから解らないかもしれないけど」
「……にゃろー……」
 流川は棗を睨みつける。現在中学三年の棗は、発言も大人顔負けだ。まぁ……確かに棗の言う通り、流川は女の子とつき合った、経験ってのは一度もない。相手が支度に手間取って、イライラなんてしたことないから。
「今日は檀の誕生日なんだよ? 少しくらい時間がかかったっていいじゃない」
「……ンなこたー解ってる……」
 そう、ちゃんと解っているのだ。ただ……息子のこの顔で、言われると限りなくムカつくだけで。
 ――イマサラ言ってもしょーがねーけど……。
 と、いうのもこの棗くん、流川の不倶戴天の敵、仙道彰にそっくりなのだ――念のために言っておくが、棗の父は流川である――そのために父と子の間に、色々騒動があったのだが、今は全く落ち着いている。だが……どうしてもこの顔で、言われるとムカついてしまうのだ。
「女の子が支度で遅れても、許してあげるくらいの度量がなきゃね、男には」
「……るせー……」
 流川がぼそりと言った時、ようやく部屋のドアが開いた。
「よ、待たせたな」
 出てきたのは花道と、三、四歳の女の子。長い髪をツインテールにし、ピンクのリボンを飾っている。白いレースのワンピースを着た、将来が楽しみな可愛い子だ。
「ごめんなさい、おそくなって」
 幼女……檀は父と兄に、まずぺこりと頭を下げた。それに棗が首を振る。
「気にする事じゃないって。それに檀、可愛いよ。ワンピースとリボン、すごく似合ってる」
「ありがとう、おにいちゃん」
 それから檀は流川を見上げて。
「パパ?」
「……似合って……る……」
 この一言に檀はにっこり。口下手な父親と解っているので、これだけでも充分らしい。そこで花道が流川に言った。
「んじゃ行くか。ルカワ、車出せよ」
「……おー……」
 頷いて流川は歩いて行く。その後ろ姿に棗がため息。
「ったく……おとーさんったら、もーちょっと言い様ってのがあると思うんだけど」
 息子の言葉に花道は笑った。
「まー、アレがルカワだかんな」
 棗はそんな母親をちらり。それからもう一度ため息をついた。
「おかーさんがそーやっておとーさんを甘やかすから悪いんじゃないの?」
「ぬ?」
「今からでも遅くないよ、おかーさん。おとーさんがちゃんと会話ができるよう、躾け直したら?」
 息子に酷い言われようだが、事実なので花道も弁護はできない。代わりに軽く苦笑して。
「アレでこれまで来ちまったかんな……イマサラ変わったら、周りが困るんじゃねーか?」
「それは……そうかもしれないけど……」
 笑顔全開で周囲の人々と、コミュニケーションしまくる流川……想像しただけで恐ろしい。
「だから、ルカワはあれでいーんだ。ま、ショセンはキツネだかんな。人間様の言葉が解らんのも無理はない」
「おかーさんったら……」
 呆れたような息子棗に、娘の檀はにこにこにこ。この両親と兄に囲まれ、随分と行儀よく育っているらしい。それから檀は花道をくいっ。小さな手でシャツを引いた。
「ママ、パパがまってるよ。いこ。おにいちゃんも」
 可愛い笑顔で促され、花道と棗は思わず笑顔。それから同時に頷いた。
「んじゃ行くか、ナツメ、マユミ」
「うん」
「はい」
 右手に棗、左手に檀の、手を握って花道は、自分たちも外へ歩き出した。




 今日が誰の誕生日だか、多分皆さん、お解りでしょう。今日は流川・花道夫妻の、愛娘である檀ちゃんの、御歳四歳の誕生日だ。花道に似てきた檀ちゃんは、周囲から大層愛されており、今日はみんなでその誕生日の、パーティをすることになったのである。
 そのパーティの会場とは。
「よ、いらっしゃい」
 ドアを開くなり笑顔で言ったのは、花道の親友水戸洋平。そう、檀ちゃんの誕生日パーティは、洋平のお店で行われるのだ。
「わりーな、よーへー。今日は宜しくな」
「なーに言ってんだよ、花道。檀ちゃんの誕生日だろ? 俺にできることなら何だってやるさ」
 それから洋平は花道の、隣に立つ檀に向かい。
「お誕生日おめでとう、檀ちゃん」
「ありがとう、よーへーおにいちゃん」
 恥ずかしそうに言う檀に、洋平はにっこり。
「お、今日は新しいワンピースか? とっても似合ってて可愛いぞ」
「あ……ありがとう……」
「とーぜん! この天才が見立てたんだぜ! それにマユミはかわいーから何でも似合う!」
「ま……ママ……」
 完全に親馬鹿発言だが、檀を見れば納得するだろう。洋平はそれに大げさに、驚くような顔をして。
「花道の見立てか! お前のセンスでもこんだけ似合っちまうってのは、檀ちゃんが可愛いおかげだな」
「ふぬっ! よーへー!」
 そんな風に親友同士で、親交を暖め合っていると、呆れたように棗が言った。
「おかーさん、それより早く中に入ろうよ」
「お、そーだな」
 花道は檀の手を引いて、店の中に入って行く。入ると同時にクラッカーがパーン! そして聞こえるのはおめでとうの嵐だ。
「檀ちゃん! お誕生日おめでとう!」
「ハッピーバースデー!」
 中には檀の両親である、流川と花道の友達連中、および先輩が集まっている。檀は一瞬びっくりして、それから嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、みなさん」
「さぁさぁ、檀ちゃん、早く席に着いて」
 中にいた流川の両親が、檀に来い来いと手招きをする。花道が頷いて手を離すと、檀はとてとてかけて行った。
「今日はおじいちゃん、檀ちゃんを撮りまくるぞ〜」
 一眼レフのデジカメ片手に、祖父の基がそう言えば、それに負けじと祖母の芳野は、ムービーのレンズを檀に合わせた。
「おばあちゃんも頑張るわよ〜!」
 これを見た流川ははーっとため息。棗の時はある程度まで、一緒に暮らしていたためか、こんなことはなかったのだが、檀には二人とも争うように、カメラを持って撮りまくっている。ちなみに実家の一室には、檀ギャラリーがあるらしい。
 しかし檀は嫌がりもせず、にっこり笑うと。
「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん」
「おとーさん、おかーさん、すんません。ルカワもオレも、機械ものには弱くて……」
 花道が二人に向かって謝る。これに基がレンズを向けて。
「花道君、笑顔!」
「え? あ、はいっす!」
 にかっ、と笑う花道に、基がカシャリとシャッターを切った。
「うん、やっぱり花道君と檀ちゃんは、被写体がいいから写真も撮りがいがあるねぇ」
 そこで流川が基にすすすっ……。
「……オヤジ……」
「ん? 何だ? 楓」
「どあほーの写真……あとで焼き増し……」
「だーっ! 何言ってんだこのキツネッ!」
 結婚をしてはや十五年、未だに旦那はこの通りらしい。そこで棗が流川をぐいっ!
「いーからおとーさん、早く席に着こうね。おかーさんと檀も」
「そーだな」
 檀は祖父母の隣に座り、もう片方の隣には、棗と花道、流川が座る。それと同時に洋平が、大きなケーキを持ってきた。
「バースデーケーキ登場だぞ」
「おおっ! すっげーな!」
 檀ではなく花道が一言。流川がやれやれと肩をすくめた。
「てめーのじゃねー、どあほう」
「ふぬっ! ンなのわかってるよ! キツネ!」
 流川と花道相変わらずの、やりとりに他のみんなはにっこり。やっぱりこの二人には、こういうやりとりが似合っている。
「それより、みんなでバースデーソング歌うわよ! 檀ちゃんは、歌が終わったらろうそくを吹き消してね」
 そういうのは彩子嬢。ある意味檀誕生の、功労者……といったところか。何しろ彩子の研究チームが、開発した性別転換薬を、花道が飲んだそのおかげで、檀は生まれたのだから。
「はい」
 檀がこくりと頷くと、彩子の音頭で全員が、ハッピーバースディを歌いだす。その歌が歌い終わると同時に、檀はケーキの上に立つ、四本のろうそくを吹き消した。
「おめでとう! 檀ちゃん!」
 全員でわーっ! と拍手喝采。その真ん中で少しだけ、照れ臭そうに檀は笑った。
「ありがとうございます、みなさん」
「さ〜て、じゃ、お次はお待ちかねのプレゼントターイム!」
 どうやらこのパーティは、彩子が仕切っているらしい。
「じゃ、まずアタシからね」
 彩子が檀に渡したのは、特大サイズの熊のぬいぐるみ。檀が隠れる大きさだ。
「ありがとう! あやこおねえちゃん!」
 檀は熊さんのぬいぐるみをぎゅーっ! その光景を祖父である、基がすかさず激写だ。ちなみに芳野はケーキの時から、ずーっとムービーを離していない。
「それと、これはリョータから」
 彩子が出した紙袋は、かなり有名な子供用の、ブランド服のものである。
「仕事で来れなくてごめんね、だって」
「ありがとう!」
 檀の代わりに花道が、紙袋の中を取り出せば、スタイリッシュなTシャツとパンツだ。
「すんません、アヤコさん、こんなたけーもん……」
「ああ、そのブランド、リョータの知り合いのブランドだから、気にしないで。市販価格よりだいーぶ安いのよ」
 ちなみにリョータは現在有名な、ヘアデザイナーになっている。海外まで仕事の幅が増え、なかなか日本にいないのだ。
「りょーちんに、よろしく伝えてくださいっす」
「解ったわ。はーい、じゃお次は誰〜?」
「はーい!」
 手をあげたのは晴子嬢だ。隣には檀よりちょっと大きい、女の子が一緒にいる。
「はるのちゃーん!」
 檀が手を振ればその女の子も、檀に笑顔で手を振替す。晴子が大きなお腹を抱えて、よいしょと立ち上がろうとしたのを、花道が慌てて手を貸した。
「でーじょぶっすか? ハルコさん」
「うん、へーきへーき」
「あんまり無理はしねーでください。でーじなカラダなんっすから」
「ありがと、桜木君」
 大きなお腹で解るだろうが、晴子は今、妊娠中。九ヶ月に入ったらしい。ちなみに旦那は桜木軍団、チビデブメガネの高宮望だ。晴子曰く、ぷよんぷよんで、コンパクトサイズが最高らしい。そしてその隣に立つのが、二人の長女、晴乃ちゃん。幸いな事に晴子に良く似た、可愛らしい女の子だ。檀より二つ年上だが、二人はとっても仲が良い。
 そうやって花道の手を借りて、晴子と晴乃は檀に近づき、はいっ、と大きな箱を出した。
「おめでとう、檀ちゃん」
「ありがとうございます! あけてもいいですか?」
「勿論」
 檀は丁寧にリボンと包みを、はがすと中の箱を開ける。中身は子供用のおしゃれセットだ。
「わ〜〜〜〜っ! はるのちゃんとおんなじのだ!」
 檀は嬉しそうな声を上げる。おしゃれセットというものは、小さな子供の女の子が、お化粧の真似事をする玩具だ。以前晴乃の家に行った時、『いいなぁ……』と言ったのを覚えていたらしい。
「ありがとう! はるこさん! はるのちゃん!」
「どういたしまして」
 喜ぶ檀の様子を見て、花道が晴子に向かって言う。
「すんません、ハルコさん」
 母親とはいえ花道は男。女の子のこういう玩具に、詳しくないのは仕方がない。
「いーのよぅ。晴乃がこれがいいって言ってくれたの」
「そっか、ハルノちゃん、ありがとな」
「ううん、あたしもまゆみちゃんとおそろいでうれしいから」
 晴乃は笑顔でそう答える。その光景を見てから彩子が。
「さーて、お次は……」
 そうやって彩子司会の元、檀へのプレゼントは続く。流川、花道の同級生から、バスケ部の先輩、それから色々、世話になった陵南メンバーまでが、お人形やらぬいぐるみやら、アクセサリーやら洋服やらを、檀にプレゼントしてくれる。檀はそれぞれお礼を言った。全く二人の子にしては、礼儀正しく育ったものだ。
 それらが一通り終わった後。
「さて、では会食タイムです! 洋平君の絶品料理! 皆さんお楽しみくださーい!」
 これを合図に全員が、テーブルの料理に手をつけ始める……と。
 キョロキョロキョロ。
 何故か流川が周囲をきょろきょろ。一緒に棗もきょろきょろきょろ。
「ぬ? どーしたんだ? 二人とも」
 不思議に思った花道が、旦那と息子に尋ねると、二人は顔を見合わせて。
「……いや……なんでもねー……」
「う……うん、なんでもないよ、おかーさん」
「?」
 首を傾げた花道だったが、檀に声をかけにきた、相手への対応をしなければなので――旦那流川にそんなこと、間違ったってできないから――それきり追求しなかった。
 が、父と息子はひそひそ。
「……あのヤロー……こねーな……」
「油断しちゃ駄目だよ、おとーさん」
「そーだな……」
 そんなこんなでパーティは、和やかな空気で進んで行く……と思われたところで。
 ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ。
 店の外で何やらトラックが、バックするような音がした。そして。
「すみませーん。お届けものにあがりましたー」
 ドアが開けられ声がした。見れば業者の人らしい。パーティに来れない知り合いが、プレゼントを贈ったのだろうか? 思った洋平が立ち上がる。
「ごくろうさん」
「どうも。じゃあ……中に入れてもいいですか?」
 ……入れて……?
 の言葉に首を傾げたが、取りあえず洋平は頷いた。すると配達業者の人は、店のドアを開けて押さえ。
「おーい、いーぞー!」
「解ったー!」
 もしかして一人では持てないほどの、大きなものでも送ったか? 店内の人間、そう思ったが。
 次の瞬間。
 ザザーーーっ! と何かが崩れるような、音とともに店内になだれ込んだのは、真っ赤なバラの花々だった。どうやら外にトラックがあり、その荷台から流しているらしい。
「なっ……なんだっ?」
 花道が驚いて声をあげる。ついで。
「やっほ〜い!」
 陽気……というより、既にアホの、領域に入っているような口調で、バラの波の上をサーフボードで、滑り込んできた男が一人。
「檀ちゃーん! お誕生日おめでとー!」
「……仙道……」
 そう、今や世界的に、有名なバスケットプレイヤー、陵南OB仙道彰だ。
「遅れてごめん……ぐほっ!」
 最後の悲鳴はバラの波の上、停止ができずに店の壁に、見事に激突したせいだ。
「……………………」
 店内では思わず全員沈黙……。みんな元々仙道が、変人だとは思っていたが、なかなかインパクトのある登場シーンだ。
「いやぁ〜……止まれないとは思わなかったなぁ〜」
 普通思うだろと、心の中で、全員同時にツッコミ! しかし復活した仙道は、へら〜っと笑って立ち上がった。
「で……でーじょうぶ? おめー……」
 一応花道が声をかけると、仙道はそのまま花道に抱きつきっ!
「桜木っ! 俺のことを心配してくれるんだねっ! ありがとう! なんて優しい奥さんなんだ! 流川のだけど」
「だーっ! 離しやがれ! センドー!」
 仙道を引き離そうと、花道はばたばたもがく。と。
 ゲシゲシッ!
 旦那流川のケリが炸裂っ!
「ぐはあっ!」
「……てめー……ヒトの女房になにしやがる……」
「あっれ〜流川もいたんだ」
「いるに決まってンだろ……」
 今日は檀の誕生日。流川は檀の父親だ。
「流川、桜木と子供達の事は俺に任せて、お前はさっさとどっか行って……」
 再びケリっ!
「行くわけねーだろ」
「え〜残念だなぁ……」
 この会話でお解りだろうが、この仙道、高校時代から、ずっと花道に横恋慕している。流川と花道がこうなった後でも、懲りずにアタックしているのだが、最近ターゲットが増えたようで……。
「ところで檀ちゃん!」
 仙道はこの光景を、にこにこ見ていた檀にずいっ! どうやら両親&仙道の、こういう騒ぎは慣れているらしい。
「お誕生日だね、おめでとう」
 普通の女性なら即落ちるような、キメ顔で仙道はそう言うと、上着のポケットから何かを出した。何か……それはビロード張りの、手のひらサイズの小さな箱。
「せんどうさん?」
「プレゼントだよ、受け取ってくれないか?」
 言いながら仙道は箱の蓋をパカッ。中にあるのは大粒の、ダイアモンドがまぶしい指輪だ。
「俺の年俸を月割りにした三ヶ月分の指輪だよ。檀ちゃん、俺と結……」
「とりゃあっ!」
 飛んできたのは棗の拳。勢いで仙道はすっとんだ。
「も〜仙道さんったら、冗談好きですよねぇ。まだ檀は四歳なんですよ〜」
 にこにこ笑顔で言う棗。しかし瞳は笑っていない。仙道は懲りずに立ち上がると。
「大丈夫さ、棗くん。俺は歳の差なんて気にしない」
「気にしろ」
 ゲシッ! 再び流川の蹴りっ!
「流川〜酷いじゃないか〜未来の息子に向かって〜婿虐待で訴えちゃうぞ〜」
「やれるもんならやってみやがれ、この腐れ外道。そっちがその気なら、こっちは幼児虐待で訴えてやる」
「あ〜……そうなると俺の方が分が悪いかぁ……でもほら、そこに愛があれば!」
「ありません!」
 加えてたとえ同意の上でも、檀の歳では犯罪だ、仙道。
「この変態が……」
 流川と棗で仙道を囲み、仙道が何か言うたびに、二人で交互に殴る蹴る。しかし他のメンバーは、こんなことなど慣れているので、放っておいて会食続行。花道ははぁ……と息を吐いた。
「ったく……センドーは変わりねーなー……あれでNBAの最優秀選手ってゆーんだからな……」
「全くだな。っていうか、このバラ、どーすっかね」
 洋平もまたため息だ。むせ返るようなバラの香りと、床一面のバラの花に、どうしたもんかと頭をかく。
「キレーな奴、選んで、てきとーにみんなに配ればいーんじゃねーか?」
「……そうするか。つーか、花道、アレ、そろそろどうにかした方がいいんじゃないか?」
 洋平がさすのは流川父子と、婿候補(?)の仙道の方。花道はもう一度息を吐いた。
「しょーがねー……ちっと行ってくる」
「ま、がんばれや」
 三人の方へ向かう花道を、見送ってから洋平は、残った檀に向かって言った。
「しっかし、檀ちゃんの周りってのは、楽しい奴らばっかりだな」
「はい。わたし、みんなだいすきです」
「そっか」
 ついで洋平はエプロンの、ポケットから何かを出した。
「こいつは、俺から檀ちゃんへ」
「よーへー……さん?」
「誕生日プレゼントだよ。女の子がどんなものを喜ぶか解らなかったから、そんなもんになっちまったけど」
 見ればそれは可愛らしい、マスコットがついたバックチェーン。
「あ……ありがとうございます! わたし、たいせつにします!」
 嬉しそうに頬を染めて、檀はバックチェーンを抱きしめる。洋平はそれに微笑むと、再び花道達を見た。様相は花道乱入のもと、三つどもえ対戦になっている。ちなみに花道が入った時点で、棗は応援に回ったらしい。
「てめー……いーかげんけーれ……」
「そんな酷いよ〜。桜木〜! 流川が虐める〜!」
「……ルカワ、てめーもその言い方……って、センドー! てめーもひっつくんじゃねー!」
「え〜いいじゃん、減るもんじゃなし」
「そーゆーモンダイじゃねーだろーが!」
「……どあほーから離れろ……このヘンタイ……そいつはオレのツマだ……」
「そーゆーことは言わなくていー! このキツネ!」
「じゃ、俺の奥さんにならない? 桜木」
「なるかーっ! つーか、てめーらいーかげんにしねーと、まとめてこの天才が黙らせるぞっ!」
 そこで飛ぶのはそれぞれへの応援。
「おかーさん、がんばれー!」(棗)
「桜木花道! そんな馬鹿な男ども! のしちゃいなさい!」(彩子)
「流川君! 仙道さんなんかに負けちゃ駄目だよぅ!」(晴子)
「仙道! とりあえすてめーは帰れ!」(越野中心陵南OB)
「……頼むからウチの店を壊すのだけはやめてくれよ……」(洋平)
 まるでパーティの余興のノリで、三人対戦をはやし立てる。そんな風にして檀ちゃんの、誕生バーティは過ぎて行き……。





 数時間後、パーティは、楽しい空気のままお開きになった。
 集まってくれた人たち全員を、一人一人出口で見送り、残ったのは洋平と流川、花道夫婦、そして二人の子供だけ。
「きょーはありがとな、よーへー」
 後片付けの手伝いをしながら、花道が洋平にお礼を言う。
「なーに言ってんだよ、花道。俺にはこれくらいのことしかできないからな」
 今回の主役である檀は、疲れたのか流川の膝で、すやすやと寝入ってしまっている。棗もまた、その隣で、こくりこくりと居眠りをして、勿論流川もぐっすりだ。
「ったく……似たものオヤコっつーのは、こーゆーんだろーな」
 花道が苦笑まじりに呟く。洋平も「そうだな」と頷いて。
「それにしても、お前がいっぱしの母親の顔をするとはねぇ」
「な、なんだよ、よーへー!」
「怒るなって。それはお前が幸せなんだ、ってことなんだからよ」
 ついで洋平は花道の、赤い頭をぐりぐり撫でた。
「親友としちゃ、嬉しいってこと」
「よーへー……」
 と、そこで洋平の手が、何かにぐいっ! と掴まれた。見ればいつの間に起きてきたのか、流川が傍に立っている。洋平の手を掴んだ状態でだ。
「流川?」
「どあほーに触るんじゃねー」
「なっ……何言ってんだ! バカギツネ!」
 洋平にまで警戒をする、流川に花道はそう怒鳴る。洋平は『はいはい』と肩をすくめた。
「でもな、お前の大事な奥さんは、俺の長年の親友でもあるんだけどねぇ」
「ンなのかんけーねー。オレ以外のヤローがこいつに触るンはゆるせねー」
 これに花道は流川を殴る。洋平はもう一度『はいはい』と頷いた。
「じゃ、旦那が怖いから、俺は厨房を片付けてくるな。悪いけど花道、こっち頼んでいいか?」
「おー! まかせとけ!」
「じゃ、頼むな」
 洋平は厨房へ下がって行く。そして花道は流川に向かい、雑巾をずいずいずいっ!
「てめー、起きたんなら手伝え」
「めんどくせー……まだねみーし」
「……そんなに寝たきゃ、この天才が永遠に眠らせてやろーか……」
 雑巾をぎりっ……と握りしめて、花道が言えば流川は『チッ……』仕方がないと雑巾を取った。手近なテーブルを拭いて行く。その向こうには棗と檀が、寄り添うように眠っていて……。
 ふと、花道は先程洋平に、言われた言葉を思い出した。
 ――シアワセ……か。
 確かに幸せなのかもしれない。流川とそして棗と檀、二人の子供に囲まれて……。
「……ルカワ」
「ンだ?」
「……オレ……シアワセ……だぞ」
「どあほう?」
「おめーと……ナツメと、マユミがいて……ホントにシアワセだ」
 言ってしまってから花道は赤面!
「あ……べっ……別に深いイミがあるわけじゃねーかんな! ただ……なんか、ふと……そう思っただけで……」
「どあほう……」
 と、流川が雑巾を置いて、花道に手を伸ばし抱きしめてきた。
「ル……ルカワ……」
「オレも……シアワセだ……」
「……おぅ……」
 花道は自分もゆっくりと、流川の背中に手を回した……時。
「だから、どあほう」
「ぬ?」
「三人目、つくろー」
「……………………」
 何を言い出した、このバカギツネは。
 黙る花道に流川は自分の、ポケットから何やら薬を出した。
「そっ……それって……」
 まさかあの時花道が飲んだ、性別転換薬じゃないか……?
「アヤコセンパイに、ムリ言ってもらった」
「……………………」
「コレ、あればでーじょぶだ」
「……………………」
「だから今夜あたりにでも、三人目、つくろー」
「こンのバカエロギツネーーーーーーっ!」
 どがっ! ばぐっ! げしっ!
 花道に盛大に流川を伸すと、薬を踏みつけ……。



 相変わらずの流川・桜木一家、とにもかくにも幸せそうである。

 HAPPY BIRTHDAY 了






ほぼ無条件リクエスト企画でKUMA様から頂いた、
『SLAM DUNK』PANICシリーズその後、檀の話、です。
いや、ダンクを書くのは去年の夏のコピ本以来で、楽しかったです。
と、いっても、何だかホームドラマっぽくなって、流花色が薄くなってしまいましたが。
あ〜……えっと、PANICシリーズを知らないお嬢さんで、興味をお持ちいただいた方は、
古本屋かオークションで出回っているのではないか、と(苦笑)
えと、KUMA様、リクエストありがとうございました! こないな代物になってしまいましたが、宜しかったらお受け取りくださいませ!













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