KARAOKE?



     1

 いつものように(?)セイリオスの、執務室に現われたメイが言った。
「ねぇ……殿下。大丈夫?」
「何がだい?」
「ん……だって……なんか疲れてるみたい。顔色よくないよ?」
 もともとセイリオスは色が白い。そりゃあ王宮の執務室で、毎日書類とにらめっこでは、日に焼ける機会もそうないだろう。だが……何だか今日のセイリオスは、いつもよりも一層白い。
「疲れてるなら……休んだ方がいいよ?」
「ああ……ありがとう、メイ。大丈夫だよ。気にしてくれてありがとう」
 にっこりと優しく微笑まれ、メイは思わず軽く赤面。本当にこのセイリオス殿下は、お伽噺の王子様が、絵本から抜け出たようなのだ。真っ当(?)な女の子だったなら、こんな笑顔を向けられて、平静でなんかいられないだろう。
 そして……メイも例外にあらず。
 ──う……殿下って……ホントに王子様ってカンジだよね……。
 もといた世界の友達に、このセイリオスを見せてやりたい。そして……この王子様が、自分の恋人……もとい婚約者と、いうことを思いきり自慢してやりたい。
「だけど、メイ」
「ん? 何?」
「また、私の事を殿下って呼んでるね」
 ──はうっ!
 メイは思わず顔をしかめた。こうなる前はセイリオスのことを、『殿下』と呼んでいたために、なかなか……名前で呼び慣れない。気が付くと以前と同様に『殿下』と呼んでいたりするのだ。
「……ゴメン……」
「約束、覚えてるよね」
「う〜〜〜〜〜」
 約束……それは一度メイが、セイリオスのことを『殿下』と呼ぶ度、一つキスをするということ。
「ちゃんと、約束守ってもらうよ」
「……ねぇ……セイル……コレってすっごく恥ずかしいんだよ?」
「解ってるよ。だから効果があるんだと思うんだけどね」
 ──……絶対殿下って性格悪いと思う……。
 だけどメイはそんなセイリオスが、好きになってしまったわけで……。
「メイ」
 ──うううう……。
 促すように言うセイリオス。メイは『ええいっ!』と覚悟を決めると、セイリオスの頬に唇を寄せた。
 だが。
「そこじゃないよ、メイ」
 ──え?
「頬にキスなんて、私の事を子供扱いしているのかい?」
 ──それって……。
 つまり、唇にキスしろと……?
 ──殿下って、完全無欠に性格悪いっ!
 それでもメイはセイリオスの、唇に軽くくちづけた。
「こっ……これでいいでしょ!」
「……そうだね、まぁ、許してあげよう」
 ──許してあげよう、ときたかい……。
 メイ、ちょっと握りこぶし。
 ──ぜーったい、後で仕返ししてやるっ!
 とは言っても今までに、メイがセイリオスに勝ったためしは、一度たりともないのであるが。
 そんな風にメイが懲りずに、何度目かの決心をしていると。
「でもメイ、メイこそ大丈夫かな?」
「え? 何が?」
「私には、メイの方が疲れているように見えるよ?」
 ──……それは多分殿下のせい……。
 こんな性格の悪い恋人を持つと、色々苦労をするものだから。
「またキールに難しい課題でも出されたのかな?」
「ん〜、ま、ね。でも、このメイさんがそーんな課題ごときで堪えるわけないでしょ?」
「それもそうだね」
「………………」
 ──あの〜……嘘でももうちょっと何か……ない?
 疲れているように見えると言いながら、あっさりとそう納得するか? 確かにキールの課題ごときで、メイが堪えることはない。どっちかってーと堪えるのは、課題を出したキールの方だ。ギリギリになっても提出しない、メイにハッパをかけるのは、この保護者さんの役目だから。以前なら放っておくところだが、今やメイはクライン王国、次期皇太子后なのである。早く魔法院卒業させて──それもしかるべき成績で──王宮にメイを預けなければ。それが遅れれば責任は、全部キールが負うことになるのだ。
 ──それにしたってさぁ……。
 そうメイが少しいじけていると。
「でも、メイには色々と大変な思いをさせているから……すまない、メイ」
 真剣な瞳でセイリオスが言った。その言葉を聞いたメイは、今まで怒ってたのにも関わらず、ちょっと……いやかなり嬉しくなった。やっぱり……好きな人が自分を、心配してくれるというのは嬉しい。だけどこのセイリオスに、余計な心配はかけられない。他にも問題山程抱え、激務をこなしているのだから。
「だーいじょうぶ! 殿下が謝ることなんかないの。このメイさんにまっかせなさい!」
 何を任せるかなんてのは、このさいこっちに置いておいて。
「だから殿下は、あたしのことなんて気にしないで……」
 そこでセイリオスはにやっ。
「メイ」
「え?」
「また、やったね」
 ──はううっ!
「今は二回言ったから、約束のキスは二回だよ?」
 ──………………。
「ね」
 セイリオス殿下の最強兵器、とびっきりのロイヤルスマイルを、向けられたメイに勝機などなく……。
 ──この……腹黒殿下っ!
 心の中で叫びながらも、メイは約束通り二回、セイリオスにキスをしたのだった……。

     2

「それにしてもなぁ……確かに……色々とストレスはたまってるのよねぇ……」
 なんだかんだと言いながらも、セイリオスの部屋に居座っているメイは、お茶を飲みながら呟いた。
「ね、でん……セイルもストレス溜まるでしょ? 溜まらないわけないよね? こーんなに沢山仕事があるんだし」
「そうだね。まぁ……ストレスを感じることはあるね」
 セイリオスのその答えに、メイは軽く身を乗り出した。
「そういう時、セイルはどんな風に発散してるの?」
「発散……と言われても……」
 珍しく困った様子のセイリオス。メイはここぞっ! とばかりに言う。
「ねね、あたしにも教えてよ。やっぱ、お忍びで出かけるとか?」
 まるで何か面白いものを、見付けたように目を輝かせる、メイの様子にセイリオスは苦笑。
「そうだね。城下に出て、人々の生活を見て回るのは、確かに気分転換にはなるけれど、一応これも私の仕事の一つだからね」
 ──なーんて言って、ホントはただ楽しみたいだけなんじゃないの〜?
 とは思っても、口には出さない、分別は一応メイにもあるので。
「ふ〜ん……じゃ、他には?」
「そうだね。メイとお喋りをすることかな?」
「あたしと?」
「君と話をしているだけで、私は随分と気分がよくなるんだよ?」
 セイリオスお得意のにっこり攻撃に、メイはやっぱり頬を赤らめっ! こんな台詞を他の男に、言われたら即行殴っているが、セイリオスだと……。
 ──う〜〜〜〜殿下ほどの美形だと、何言っても許せるわ……。
 不本意ながらメイは思うと、「ありがと」とだけ答えを返した。
「で、メイはどうなのかな?」
「あたし?」
「そう、メイはストレスが溜まるとどうやって発散するんだい?」
 ──そーねぇ……。
「やっぱ……街で買い物とか……騎士団の練習見学に行くとか……かな」
 『騎士団』の言葉にセイリオスはピク。
「……メイ……まさか練習に混じったりしてないだろうね……」
「え……や……やっだな〜そんなことあたしがするわけないじゃん」
 あはははは〜と笑いながらもメイは内心冷や汗たらり。
 ──鋭いわ……殿下……。
 今の時代(?)女の子も、自分の身くらい自分で守る! と、時々メイはガゼルとシルフィスに、強請って剣術習っているのだ。そんなことなどしなくても、メイには強力な攻撃魔法、『ファイヤー・ボール』があるのだが。
「……まぁ、そういうことにしておこう。他には?」
「他? そーねー……昔は友達とカラオケとか行って歌いまくったけど……」
「カラオケ?」
 ──あ、そっか。殿下、知らないよね。
 剣と魔法のこの世界には、メイの世界の電気機具は、遺物扱いされているのだ。どういったわけでそうなのか、メイにも解らないのだが。
「ん〜っとね……どー言えばいーのかなぁ……。歌の、伴奏だけ流れる機械なんだ。モニターにちゃーんと歌詞が出て来てね、それを見て歌を歌うの」
「へぇ……楽しそうだね」
「うん! すっごく楽しいよ! セイルにもやらせてあげたいなぁ……。二時間くらいやると、結構気分がすかーっ! とするんだよ! 友達と一緒に大声で歌ったりすると、ホント、気持いいんだ……」
 言いながらメイは少しだけ、自分の世界を思い出した。帰還魔法の研究は、まだキールが続けている。帰還……というより二つの世界の、行き来ができる魔法だが。それが完成しない限り、メイは元いた自分の世界に、戻ることはできないのだ。それに、もし、戻れたとしても、二度とこちらに帰れないなら、メイには戻るつもりはなかった。何故なら……あちらの世界には、このセイリオスがいないのだから。
 それでも……思い出した時は、懐かしく感じるのは当然で。
「……メイ」
 自分の世界を思い出し、少しの間黙り込んだ、メイをセイリオスが呼んだ。メイはハッとして顔をあげる。
「あ、ごめんごめん。ちょっと向こうの事思い出しちゃった。ごめんね、殿下」
 言ってからメイは思わず「あっちゃ〜」 また殿下と呼んでしまった。
 ──あうう……また……約束のってヤツかなぁ……。
 そう思いながらおそーるおそる、メイがセイリオスの方を見ると。
 ふわっ……といきなり暖かいものが、自分を包み込むのを感じた。
 ──……殿下……?
「ちょっ……でん……セイル? どうしたの?」
「……好きだよ、メイ」
 ──はぁっ?
 突然言われた愛の言葉に、メイは思わず大赤面!
「で……殿下……じゃない、セイル! どうしたのよ! オイ、コラ! 離せ!」
「嫌だよ。メイはどこにもやらない」
「………………」
「心が狭い男だと思われてもいい。メイを……離すなんてできない」
「……殿下……」
 心無しかセイリオスの、声が微かに震えている。まるで……怯えているように。
 ──殿下……。
 だからメイは笑って言った。
「どこにもいかないよ」
「メイ?」
「あたし、ドコにもいかないよ?」
 こんなにも自分を想ってくれてる、王子様がココにいるのに。
「ね?」
「メイ……」
 セイリオスは再びメイをぎゅっ、と力をこめて抱き締める。それはすごく照れ臭いのだが、メイはそれ以上抵抗しなかった。抱き締めてくる力の強さ。それはそのままセイリオスの想い。
 ──あたしって……すっごく幸せなのかも……。
 こんな風に一人の人に、それも自分も大好きな人に、深く想われているなんて。
 ──……恥ずかしいけどね……。
 と、頃合を見計らって、メイはセイリオスに声をかけた。
「……ね、殿下、そろそろ……離して欲しかったりするんだけど……」
「……そうだね」
 名残惜しそうにセイリオスは、自分の腕からメイを離す。メイは少し恥ずかしくて、セイリオスの顔をまともに見られず、それを誤魔化すようにお茶の、カップに手を伸ばそうとして……。
「ところでメイ」
 セイリオスに呼ばれてメイはくるっ。少し俯いて振り返った。
「なに?」
「四回」
「……え?」
 ──四回?
 一体何が四回なのだ?
 思わず顔をあげたメイに、セイリオスは見事なロイヤルスマイル。
「約束のキスだよ」
「………………」
 どうやらしっかりセイリオス、メイが『殿下』と呼んだ数、あの状況でも数えてたらしい。
 ──こっ……このっ! 性悪殿下っ!
 そう思いながらもやっぱりメイは、ちゃんと言われた通り四回、セイリオスにキスをしたのだった……。

     3

 数日後。
 魔法院のメイのところに、セイリオスから手紙が届いた。内容は王宮に来て欲しいというもの。
「……一体なんだっての……?」
 こんな風にセイリオスから、呼び出し(?)をくらうなんてこと、今までほとんどなかったのだが──何しろそんなことしなくても、メイの方から王宮の、セイリオスのところに行っていたから──ここ数日間キレたキールに、缶詰めにされていたせいで、セイリオスのところへ行けなかったのだ。
「ま、何か用があるのかも。取り合えず行ってみるとしますか〜」
 と、いうわけでメイは王宮へ、久しぶりに足を向けたのだが……。
「殿……セイル、何か用なの〜?」
 いつも通りセイリオスの、執務室を覗いたメイ。そう言いながらドアを開けたが、肝心のセイリオスの姿がない。
 ──あれ?
「セイル?」
 中に入ってきょろきょろきょろ。どっかに隠れているなんて……
「シオンじゃあるまいし、あるわけないわよね」
「な〜にが俺じゃあるまいし、なんだ〜?」
 その声にメイが振り返れば、ドアの側に立ってるシオン。王宮名物(?)すちゃらか魔道士。
「あ……あはは、別に何でもないわよ。ところでシオン、殿……セイル知らない?」
「ああ、セイルなら、あっちの広間にいるぜ?」
「広間?」
 何だってそんなところになんか……。
「そろそろ来る頃だから、来たら広間の方にいるって伝えてくれって頼まれてな」
「ふ〜ん……」
 ──……何か……あるのかな?
 相手がこのシオンだったら、また変なこと企んでるか? そう疑いもするところだが、相手がセイリオス殿下なら……。
 ──イヤ、解らんわ。
 何しろ腹黒殿下だし。
「つーわけで、広間に行かねぇのか? 嬢ちゃん」
「え? あ、そーね。うん、一応行ってみる」
 例え何か企んでても、呼ばれて来たのは確かなこと。ここで顔を見せずに帰ったら……後が恐いと言うことで。
「じゃーね、ありがと、シオン」
「たまにはオレのとこに茶でも飲みに顔みせろよー」
「そのうちにねー」
 メイはシオンに手を振ると、言われた通り広間へ向かった。
「それにしても、なーんで広間になんか……」
 いや〜な予感がしてしまうのは、いったいどうしてなんだろう……。
 思いながらもメイは広間に、通じる扉を両手で押した。
「セイル? シオンがこっちだって……」
 パンパカパーン!
 ──……え?
 メイが扉を開けた瞬間、流れたのは派手はファンファーレ。
 ──……な……なに……?
 戸惑うメイが中を覗けば、同時に白い手袋を、はめた右手が目の前に出て来た。それは……勿論セイリオスのもの。
「殿……セイル?」
「お手をどうぞ、メイ」
 ──へ……?
 全然訳が解らなかったが、それでもメイは目の前に、出されたセイリオスの手を取った。
「ね……ね、セイル。いったい……何?」
 優雅に中に導かれながら、メイはセイリオスにそう尋ねる。広間の中には何でだか、オーケストラが待機していて、どうやらさっきのファンファーレは、このオーケストラのものだったらしい。
「ちょっと、セイルってば!」
 メイはなおおそう聞くが、セイリオスといえばお決まりの、ロイヤルスマイルを向けるだけで、他には何も言ってくれない。
 ──いったいなんだってのよ……。
 だがこういったセイリオスには、何を言っても聞きはしない。メイは諦めてセイリオスの、好きにさせることにした。
 ──……取り合えずおとなしくしておこう……。
 と、広間のほぼ真ん中、オーケストラの前方の位置で、セイリオスは足を止めた。
「さぁ、着いた」
 ──着いたって……広間の中には変わりないじゃない。
 という文句は飲み込んで。
「セイル……そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? いったいコレは何なわけ?」
「ストレス解消法だよ」
「…………………はぁ?」
 何だか実に得意そうに、セイリオスはメイに続ける。
「最近メイ、課題におわれていたみたいだったから、ストレスがたまっていると思ってね。この前メイが言ってただろう? カラバケツとかいうもの」
 ……それってもしかしてカラオケのこと……?
「歌の、伴奏だけ流れる機械だって、言っていたよね」
 ……そりゃあ確かにそう言ったが……。
「残念だけど、私にはそれがどういうものなのか解らないから、代わりのものを用意したよ」
 代わりのものって……
「……コレ?」
 メイが後ろのオーケストラをさせば、セイリオスはにっこり笑い。
「そうだよ」
 ──そうだよ……って……。
 カラオケの代わりにオーケストラじゃ、いくらなんでもスケールが……。
 思わず黙るメイの顔を、セイリオスは覗き込み。
「どうかしたかい? メイ」
「……あ……あのね……殿……セイル……」
 しかしそこでセイリオスは、気付いたように頷いた。
「ああ、そうだったね、これが足らなかった」
 ──……はい?
 まだ何かあるのかっ! とメイが思うと、同時にセイリオスは両手をパンパン。すると、広間のドアが開き、王宮の使用人がゾロゾロゾロ……。
 ──な……なんなの?
 おまけに彼らは全員が、大きな紙らしきものを持っている。
 ──……これって……もしかして……。
 黙るメイにセイリオスは言う。
「それじゃメイ、何の歌を歌いたい?」
「……セ……セイル……」
「そうだな。まずは試しということで、一度私が選んだ方がいいかな」
 セイリオスは何やら曲名を告げた。それは現在クラインで、流行している曲の一つ。同時にオーケストラは待機し、居並ぶ使用人達の──100人近くはいるだろう──一人がすすす……と前に出て来た。そして……持ってる紙を広げる。そこに書いてあったのは……。
 ──……やっぱり……。
 メイの想像したとおり、見やすいように大きな字で、歌の歌詞が書かれてある。
「ちゃんと歌詞も出てくるんだって言っていたよね」
 ……確かにメイはそう言った。メイの言葉だけを思えば、セイリオスはそれを忠実に、再現ってのをしてはいる。
 だが……。
 ──どうしてこうなっちゃうかなぁ……。
 それを再現するために、こんな人員使うなんて。
 ──いくら王子様だからって、やりすぎだよね。
 メイは思うと自分を見つめるセイリオスに向かって言った。
「ね、殿下」
「何だい? メイ」
 ──う〜ん……やっぱりみんなの前で言うのはよくないかな……?
 セイリオスにも立場がある。思ったメイはセイリオスの、上衣の袖を摘んで引いた。
「ね、ちょっと」
 場所を移そうと思ったのだが。
「どうしたんだい?」
「ん……外、出ない? 話したいことがあるの」
 それにはセイリオスは顔をしかめて。
「ここでは言えないことなのかい?」
「言えないことっていうか……んーっと……」
「じゃあここでお言い」
 ──……しょーがないなぁ……。
 どうやら外に出たくないらしい、セイリオスにメイは諦めた。仕方がない……と口を開く。
「あのね、殿下。これって……あたしのこと思ってやってくれたってのは解るよ。でも、よくないと思う」
「メイ?」
「あたしのために、こんなに大勢の人をまきこんでこんなこと、するべきじゃないって言ってるの。みんな、王宮のお仕事があるんだよ?」
「それは大丈夫。半分は非番の者だよ」
 ──だーかーらっ!
「なら余計でしょ? みんな毎日王宮で忙しく働いてるのに、せっかくのお休みをこんなことで潰されたら……いい気持じゃないよ?」
「メイ……」
「殿下だってそうでしょ? お休みもらったのに、お仕事が入ったらがっかりするでしょ?」
 『ね?』と念を押すように言えば、セイリオスはようやく納得したか。
「そう……だね。メイと一日過ごせるはずだった休みに、仕事が入ったら嫌だものね」
 ……どうしてもメイが基準かお前……。
 取り合えず自分と過ごす云々の、ところはあえて触れないで。
「だから、こういうことは、やめよう? あたしのストレス解消法なら、他にも一杯あるんだから」
「メイ……」
 ちょっとしゅんとしたセイリオス。メイは慌ててつけくわえた。セイリオスが自分の事を、考えてやったことに変わりはないから。そして、それが嬉しいことも。
「あ、でもね、あたし嬉しかったよ」
「メイ?」
「殿下、あたしに息抜きさせようと思ってくれたんだよね。その気持ち……すごく嬉しい。その気持だけで、あたし、ストレスなんて消えちゃう」
 メイの言葉にセイリオスは、やっと笑顔を取り戻した。そしてメイに手を伸ばす。このままじゃ公衆の面前で、抱き締められるのは必至。なのでメイは慌てて両手を突き出し!
「だ……だから、もうみんなには戻ってもらおう」
「ああ。そうしよう」
 セイリオスは頷くと並んでいる、使用人達と、楽団に言った。
「今日は御苦労だった。もうみんな戻って構わないよ」
 ついでメイも一言言った。
「みんな、今日はごめんね。ありがとう」
 その言葉を合図にしたように、広間の人々はセイリオスとメイに、一礼をして去って行く。全員が全て出て行った後、広間には二人が残されて。
「さて、メイ」
「ん? なに?」
「せっかく来たんだから、部屋でお茶でも飲んでいかないかい?」
「ん〜、ケーキつく?」
「勿論」
「じゃ、行く」
 メイの返事にセイリオスは、広間を出ようと歩きかけ……たその足がぴたりと止まった。
「でも、その前に」
 ──?
「四回?」
 ──ふえ?
 いったい何が四回なのだ?
 訳の解らんメイに向かって、セイリオスは必殺ロイヤルスマイルを、メイに向かって投げかけながら。
「約束のキス」
 ──はうっ!
 そう言えばそう言えばそう言えばっ! さっきからメイはセイリオスのこと、しっかり『殿下』と呼んでいた。
「……数えてたの……?」
「勿論」
 当然のように言うセイリオス。メイは心の中で絶叫!
 ──この、性悪殿下っ!
 だけどやっぱり惚れてる弱味。メイは大きく肩を落すと、屈んだセイリオスの唇に、背伸びをしながら顔を寄せ──。

     4

 後日談。
「よ。元気かぁ?」
 執務中のセイリオスの、元へシオンがやって来た。
「どうかしたのか? シオン」
「それはねぇだろ〜? ほら、お前に言われてた仕事、持って来たよ」
「ああ、御苦労」
 シオンはセイリオスの机に、書類の束をばさりと置く。それからにっ、とセイリオスに笑った。
「お前、何かやったろ?」
「何のことだ?」
「いや〜このところ王宮内の使用人の間で、嬢ちゃんの人気があがっててさ。とても優しい心配りをしてくれるってさ」
「そうか」
「そうか、じゃねぇって。この前嬢ちゃんのために、って、バタバタやってたことと関係があるんじゃねぇのか〜?」
「知らんな」
「またまた〜。非番の使用人たちから手空きの者まで、あんなに大勢強引に招集かけてよ。お前らしくもない」
「必要だったんだから、仕方がないだろう」
 しかしそこでシオンはすいっ……。セイリオスの前に顔をつきだし。
「お前、嬢ちゃんがそれを止めるって解ってやってたんだろ」
 シオンの言葉にセイリオス、実に優雅ににっこり笑った。
「いや? わたしは単に、メイのストレスを解消させてやるために、用意をしただけだが?」
 あくまでそう言うセイリオスに、シオンは小さく息をつく。
「ま、いーけどさ。うるさいジジイたちの評判とは違って、もともと嬢ちゃんは使用人の間では評判悪くねぇからな。」
 と、そこでセイリオスが言った。
「実際、この王宮を支えてるのは彼らだからな」
「ん?」
「メイの味方は多いにこしたことはない。そういうことさ」
「なーる」
 やはり、あれは結果を見越した、セイリオスの企みだったらしい。シオンは軽く頷くと、『それじゃ』とセイリオスに背を向けた。
「シオン? もう戻るのか?」
「あ? ああ」
「もうすぐメイが来るはずなんだが、一緒にお茶でも飲んでいかないか?」
「遠慮しとくよ。あてられるのは真っ平なんでね。ああ、それから」
「ん?」
「嬢ちゃんならもう来てるぜ」
「……え……?」
 セイリオスが珍しく驚いたように、椅子から軽く腰を浮かす。シオンがドアを開けるとそこには……。
「……セ、イ、ル〜……」
 怒りの炎を背負ったメイ。
「メ……メイ……」
「……あたしを……ハメたのね……」
「……い……いや、これは……シオン! お前!」
 焦るセイリオスが顔をあげれば、小さく舌を出してるシオン。
「じゃ、俺は戻るな〜」
「シオン! 待て!」
 慌ててセイリオスはシオンを止める。だが、そのセイリオスの目の前には、静かに(?)怒れるメイの姿。
「……メ……メイ……」
 そして。
「今日という今日は絶対に許さないんだからね! 殿下っ!」

 その日……セイリオスはメイに言われて『もう二度と騙しません』と、500回紙に書かされたとか……。

                                  KARAOKE? 了


『Real May's』様の人気投票作品です。
今もそうですが(笑)こちらの人気投票にはほぼ毎晩通い詰めて投票してたり……。
この駄文はめでたくセイリオス殿下が一位を獲得した時に参加させていただきました。
転んでもただでは起きない腹黒殿下が、メイちゃんだけにはメロメロってのが結構好きです。
けど、メイちゃんがお妃になったら、絶対クラインは安泰だと思うな。
刺客なんか来ても、ファイヤーボール一発で蹴散らしたりして。
あ……なんかそーゆーカッコイイメイちゃんって……うっとり……(←殿下は?)
でも、今度はもっとあま〜いセイル×メイが書きたいかもしれない……。

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