思いつきの代償



「ねぇ、シルフィス。アタシ時々思うことがあるんだ」
 カストリーズ家の休日の朝。メイは自分の目の前で、お茶を飲んでいる旦那様、シルフィスに向かって話し掛けた。
「何をです? メイ」
 顔を上げて微笑みながら、シルフィスはメイに問いかける。途端にメイは胸がドキドキ。自分の旦那様なのに、綺麗な顔で微笑まれると、未だに胸がときめいてしまう。
 ──……美人って得よね……。
「メイ?」
 そんなメイを不思議に思ったか、シルフィスは小さく首を傾げた。メイは慌てて両手を振る。
「あ、ゴメンゴメン。あのね、もしシルフィスが女の子だったらなーって」
「……どういうことですか?」
 メイの言葉にシルフィスの、声のトーンが少し落ちた。メイはちょっと顔をしかめる。
 ──あ……ヤバイかな?
 アンヘル種族であるシルフィスが、性別分化するまでに、色々あったのはメイも知っている。メイだって一緒に悩んでたのだ。何しろ……メイが好きになった時、シルフィスはまだ未分化で、男になるか女になるか、はっきり解ってなかったのだから。しかしメイは悩んだですんだが、シルフィスの方は必死だった。シルフィスもメイが好きだったから、もしも女になってしまったら、望みは全くなくなってしまう。それでなくともこのメイは、クライン屈指のイイ男達に、惚れられまくっていたくらいだし──メイ自身はそのことに、全く気付いていなかったが──もしも男に分化しても、メイを他の男の誰かに、さらわれてしまったら意味がない。なのでシルフィスは念願叶って、男に分化したその当日、告白もせずにメイにプロポーズ。それについてはメイとの間に、一悶着があったのだが──そりゃあそうだ、メイにしてみれば、プロポーズってのは最後の最後。告白されて(して)付き合って、それから気持ちが盛り上がって(?)されるものだと思ってたから──結局はこうして受け入れて、新婚生活送っているのだ。
 メイも今ではそれらの事を、シルフィスに聞いて知っている。なので今の自分の発言が、シルフィスの機嫌を悪くするのは、充分解っていたはずなのだが。
 ──どーしよっかな……。
 だけど言ってしまったことだし、ここまで言って最後まで、言わなきゃシルフィスはもっと怒る。なのでメイは恐る恐る言った。
「ん……とね、この前アタシ、ディアーナと一緒にお買い物に行ったの」
 メイの告白にシルフィスは溜息。クライン王国の王女様は、まだ自分の新妻連れて、お忍び歩きをしているらしい。
「でね……色々お店とか見て回ったのね」
「それが……私が女性になるのとどう関係があるんですか?」
「ん……もし、シルフィスが女の子になってたら、こうやって一緒に買い物とかできたかな〜って」
 もしかしたら三人で、色々買い物できたかもしれない。ディアーナと二人で出掛けた時、メイはそんなこと思ったのだ。
 だがシルフィスは「なぁんだ」と、すぐに笑顔を取り戻し。
「何を言ってるんですか、メイ。今だって一緒にお買い物に行っているじゃありませんか」
 ──そ……それはそーだけど……。
 実際シルフィスとメイはいつも、二人で買い物に行っている。食料品から日用雑貨。みんな二人で買っているのだ。
「で……でもっ! 女の子同志の買い物って、違うじゃない! ほら……アクセサリーとか、お洋服とか、小物とか……」
「メイが見たいって言うなら、おつき合いしますよ」
 ──う〜〜〜〜〜。
 なまじ男でも女でもない、時期が長かったせいもあり、このあたりのところシルフィスには、抵抗も照れもないらしい。
「ほ……他にも、えっと……一緒にお茶したり……」
「してるじゃないですか」
 そう言いながらシルフィスは、カップを軽く持ち上げる。
 ──え……えっと〜〜〜っ!
 このままじゃシルフィスにやりこめられる! 生来負けず嫌いのメイは、ぐるぐる必死に考えた。
 ──あ、そうだっ!
「一緒に、殿下やシオンに悪戯しかけたりっ!」
「………………」
 これはよくディアーナとメイが、王宮で仕掛ける悪戯だ。クライン王国皇太子と、宮廷筆頭魔道師は、二人の悪戯の犠牲になっている。シオンの大切にしているお茶の、茶葉を全部入れ替えたり──もちろんその後、ちゃんと全部、元の通りにしておいたが──セイリオス殿下の椅子の上に、ブーブークッション置いたりなど、実にたわいないものばかりだが。
 以前未分化であった時は、シルフィスも二人に巻き込まれてたが、男に分化してからは、そういう機会はなくなっていた。こういうことは女の子同志の、連帯感がモノを言うらしい。
 だが、シルフィスはそれにピク。
「……メイ……あなたはまだ姫と一緒にそんなことを……」
 ぎっくん。
「あまりあのお二人には近付かないでくださいと、あれほどお願いしているのに……」
「え……えっと……」
 実はシオンとセイリオスの二人は、メイ争奪戦優勝候補と、一番呼び声高かったのだ。どうやら今でもメイのことを、諦め切れていないらしい。シルフィスにしたら要注意人物。なのに当のメイ自身が、こんなに無防備状態では……。
 思わず溜息をつくシルフィス。メイはちょっと不安になった。
 ──……シルフィス……呆れちゃった……かな……?
 メイにとってシルフィスは、旦那様であり恋人でもある。何しろ恋人期間もなく、いきなり結婚してしまったのだ。だから……まだ、シルフィスを見ると、胸がドキドキときめくし、呆れられたりしたら……恐い。
「シ……シルフィス……あのね……」
 メイは椅子から立ち上がり、シルフィスの目の前に移動した。その顔を覗き込もうとして……。
「きゃっ!」
 いきなりぐいっ! と抱き締められた。
「シルフィス! な……なにすんのよぉ〜〜〜!」
「何……って、私の可愛い奥様を抱き締めただけです」
「………………」
 目の前にシルフィスの綺麗な顔。メイは自分の顔が真っ赤に、染まって行くのを感じてしまった。
 ──う〜〜〜〜こんなの反則だよぅ〜〜〜〜シルフィスのバカ〜〜〜!
「それにメイ。あなたは私が女性になったら、って話ばかりしてますけれど、もし私が女性になっていたら、できないことも沢山ありますよ」
「え?」
 思わずメイが顔をあげれば、シルフィスはメイを抱き上げて、自分の膝の上に乗せる。
「こうやって、あなたを抱き上げることも」
 それからシルフィスはメイの唇に、啄むように口付けて。
「こうやって、あなたにキスをすることも」
 そして……最後にはメイの首筋に、残る赤い跡を軽く突つき。
「昨夜のように、あなたを愛することもできなかったってことです」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 メイ、一瞬でユデダコ状態。
「シ……シルフィスのバカっ!」
 思わず膝の上で暴れるが、シルフィスはそんなこと意に介せず。
「あなたが妙なことを言い出したからですよ、メイ」
「………………」
 ──そ……それはそうかもしれないけど……。
 だけどこんな反撃は反則だ!
 しかしそこで思いも寄らず、シルフィスは大きな息をついた。
「でも……」
 ──シルフィス?
「あなたがそんなことを言い出すなんて、私はまだ、メイの夫として充分じゃないということでしょうか……」
 シルフィスは悲しそうな顔をする。メイは慌てて言ってしまった。
「なっ……何言ってるのよ、シルフィス! 充分だよっ! むしろ……アタシには勿体無いくらい……だよ……」
「メイ……」
「だからそんなこと言わないで! ね、シルフィス!」
 必死になってメイが言えば、シルフィスはやっと嬉しそうに笑う。それからメイに口付けて。
「ありがとうございます、メイ。でも」
 ──……え?
 次の瞬間立ちあがった、シルフィスにメイは抱き上げられていた。それも……しっかりお姫様だっこ。
「シ……シルフィス……?」
「やっぱりメイの夫として、役目はちゃんと果たさないと……と思います」
「……え……?」
 ──……そ……それって……?
 嫌〜な予感のメイを抱いたまま、シルフィスはスタスタ歩き出した。向かう先は……寝室のドア。
「シ……シルフィス! ちょっとっ! そっち寝室だよっ!」
「ええ、解ってますよ」
 ──解って……って……。
「もう二度と、あなたが妙なことを考えないように、今から一生懸命がんばらせて頂きますね」
 にっこり笑顔で言うシルフィス。メイは一瞬沈黙して。
「そ……そんなトコがんばらなくたっていい〜〜〜〜っ!」
 大きな声で叫んだが、しっかり抱き上げられてるメイに、それ以上の抵抗はできるわけもなく……。

 その日……夕方までがんばられたメイは、もう二度とシルフィスに、妙なこと言うのはやめようと、心に堅く誓ったのだった……。

                                思いつきの代償 了


はい、やっぱり思い付きで出来たお話です。
いや……やつかさん、エンディングファーストって、実はシルフィスとの
友情エンディングだったりするんですが(笑)
でも、あれは友情エンディング違うよね! シル、男に分化してるし、
なんだかメイちゃんやったら幸せそうで、シル「邪魔しないでくださいね」って
威嚇してるみたいだし(←そうか?)
ある意味、メイが一番環境やらなにやらで苦労しない相手ではないかと……。
つか……どーも声が石田さんだと、女性に分化させたくないってのが本音だったり……。

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