こういうのって……なんて言うんだっけ……?
 ええと……犬も歩けば棒に当たる……違う。雉も鳴かずば撃たれまい……じゃない。あとはええと……青天の霹靂? う〜ん……やっぱり何か違う気がする。
 目の前で真剣な顔をしている、仲間の一人、バッシュをみながら、ぼんやりとヴァンは思っていた……。






『少年の受難』





 事の起こりは旅の合間の、ちょっとした休憩時間の時に、ヴァンがバッシュに呼ばれた事から。
「ヴァン、少し話があるのだが、いいだろうか」
「ん? 別にいいけど?」
 バルフレアと飛行艇について、話をしていたヴァン――正確にはバルフレアに、まとわりついて話を聞いていただが――そのバルフレアが相棒のフランに、呼ばれて行ってしまったため、手持ち無沙汰になってしまった。そんな時に声をかけてきたのが、このバッシュというわけだ。別に断る理由もないので、素直にヴァンは頷いた。……後で物凄く後悔するなど、勿論この時は思いもしないで。
「えー……っと、は……話って何……かな? バッシュ」
 仲間に聞かれたくない話なのか、バッシュは休憩地から距離を置くように、ヴァンの前を歩いて行く。あんまり離れてもマズいんじゃないかと、ヴァンはバッシュの後ろ姿に尋ねた。少し吃ってしまったのは、ガラにもなく緊張したから。最初こそ兄、レックスのことで、バッシュに敵意を抱いていたが、今はもうそんな気持ちはない。全くこだわりがなくなったかと、聞かれれば返事に躊躇するが、それでもバッシュが思っていたような、酷い人間でないことは、旅の間に解ったから。
 というわけで今ではヴァンも、バッシュに普通に接している。それどころかその強さに、少し憧れすら抱いているかも。勿論一番の憧れは、空賊であるバルフレアだが。
 そんなバッシュから話があると、言われればヴァンでも少し緊張する。空気を読めないアホの子などと、仲間から散々言われているが、ちゃんと人並みに緊張するのだ。
 と、バッシュは足を止め、物凄い勢いで振り向いた。思わずヴァンは腰を引き、数歩、後退さってしまう。
 ――な……何……?
「ヴァン」
「は、はい!」
「君はとても良い少年だと思う」
「……へ?」
 いきなり何を言っているんだ?
「正しい気持ちを持って、他人を助けることを知っている。それに君は強い」
「そ……そー……かな?」
 バッシュに誉められてヴァンは照れる。自分が強いと思っている、バッシュに誉められるということは、やっぱり純粋に嬉しいものだ。
 が、突然バッシュは何か、苦悶するように顔を歪めた。
「本当であれば、君のような前途ある若者の想いは、尊重するべきなのかもしれない。若者の挫折が、時にはその未来に大きな影響を与えるという事は、勿論わたしにも解っている。そうだ、解っているのだ」
「バ……バッシュ……?」
 寡黙な印象があるバッシュに、こうベラベラとまくしたてられ、ヴァンは正直少し混乱。バッシュは何を言っているのだろう? 想い? 尊重? 挫折? 影響? 全く意味が解らない。
 ――……解らないのは……俺がアホなせい……じゃないよな?
 ヴァンがそんなことを考えている間にも、バッシュは構わず話を続けている。
「これによって、君は大きな傷を負うだろう! だが、君ならば必ずそれを乗り越えられると私は信じている! だからヴァン!」
 ついでバッシュはヴァンの肩を、馬鹿力でぐっ! と掴んだ。痛みに悲鳴をあげかけたヴァンだが、自分を覗き込んで来る、真剣なブルーグレイの瞳に、別の悲鳴が喉に引っ掛かる。自分を見つめるバッシュの瞳は、冗談抜きで血走っており、下手すりゃこのまま殺されそうな程。
 ――お……俺、なんかバッシュに悪い事した……?
 ヴァンの頭の中をぐるぐる、今までの事が甦る。そりゃあナルビナ要塞地下で、出会った時は酷い事を言ったし、突っかかりもしたけれど、その後のバッシュの様子を見れば、特に気にしている様子はなかった。今更それを持ち出しはしないだろう。
 ――後は……アーシェのことを、お前呼ばわりしてること……かな?
 アーシェはダルマスカの王女だが、ヴァンとしてみればパンネロと、あんまり変わらない認識だ。だからついつい《お前》と読んでは、アーシェの怒りをかっている。バッシュはアーシェの家来だから、怒るのは当然かもしれない。でも。
 ――……それならもっと前に、言ってくれてもいいよな……。
 やっぱりこれも今更な気がする。
 ――……後は……あ〜! もう、解んない!
 そんな風にヴァンが一人で、あーだこーだと考えていると。
「ヴァン!」
「ひっ!」
 ますますバッシュの顔が近付いて来た。ヴァンが思わず身をすくめた時。
「バルフレアのことは、諦めてくれ!」
 ――……………………へ?
 ……バルフレアの……こと?
「バ……バッシュ……?」
「隠さなくても良い。君がバルフレアを想っていることは、君を見ていれば解る」
 ――……想って……って?
 ヴァンの頭にハテナマークが、いくつもいくつも飛んで行く。
 ――……そりゃ、俺、バルフレアに憧れてるし……想ってるって言われれば、そうかもしれないって思うけど……諦めるって、何?
「君も解っているだろうが、バルフレアはああ見えて優しい男だ。君の気持ちを知ったら、無下にはできないだろう」
「あ、あの〜……バッシュ……?」
 取り合えずヴァンは、喋り続ける、バッシュにそう呼びかけてみた。だが、バッシュは気付かない。
「君が、バルフレアの優しさにつけ込むような、そんな若者ではないことは解っている。だが、ヴァン!」
「は、はいっ!」
 呼ばれて良い子のお返事ヴァン。
「想う存在を前にして、欲望を抑え込むのは難しいものだ。そうだろう? ヴァン」
「え……えーっと……」
 欲望というと……もしかして……所謂性欲……とか言うことか? となるとバッシュが言ってる事は……。
 ――……エッチ……したいってこと?
 ここにおいて漸くヴァンも、バッシュが言わんとしていることに気付いた。
 ――ってーことは……え? 俺って、バルフレアにそんな気持ち持ってたってこと?
 そう考えてヴァンはふるふる。いや、確かにバルフレアは、同性であるヴァンから見ても、容姿の整ったイイ男だと思う。でも相手は男であって、男同士でそういうのは……。
 ――……でも、もしバルフレアに誘われたら……俺、拒めないかも……。
 そんな危うい考えが過り。ヴァンは慌てて首を振る。この思考はヤバい。止めよう。
 だが、そこでヴァンはハタ。
 ――……え? でもそれじゃもしかして、バッシュとバルフレアって……。
 そういう関係になっている……と?
 思わず硬直したヴァンに、構わずバッシュは喋り続けている。
「だから、あえて言わせてもらったのだ。ヴァン、バルフレアのことは諦めてくれ。君はまだ若い。これからいくらでも良い出会いがあるだろう。それに君には、パンネロという可愛い幼なじみの娘さんがいるではないか!」
「あ〜……のぅ、バッシュ……」
「だが、わたしはもうこの歳だ。老い先短い人生に、出会いなど望めない。いや、たとえわたしが十代の若者であったとしても、バルフレア以上の人間になど出会えないだろう!」
 自分に向かって言った事と、少し違うんじゃないかなぁ……と、ヴァンは心の中でツッコミ。口に出しても聞こえないだろうから。
「バルフレアはわたしにとって、神が遣わしてくれた奇跡! わたしの人生の輝く光なのだ! ああ! この出会いに感謝を! ファーラム!」
「……………………」
 勝手に一人でイッてしまっている、36歳のおっさんの様子に、ヴァンはもう声すらかけられない。もしかしたらモンスターに襲われて、状態異常になったままかも。そう思って一応試しに、エスナを唱えてみたのだが、バッシュの様子は変わらなかった。短く祈りを捧げた後、再びヴァンに向かってがしっ!
「バルフレアは私の全てと言ってもいい存在だ。わたしのこの身も心も、彼だけのものなのだ!」
 アーシェとダルマスカ復興はいいのか? そういうツッコミも心に収めて、ヴァンはバッシュを刺激しないよう、とにかくこくこく頷いた。
「ヴァン、君には申し訳ないと思う。だがわたしにはバルフレアが必要なのだ。頼む、わたしからバルフレアを奪わないでくれ!」
 大丈夫、盗らないから。そう言う隙すら与えずに、バッシュはヴァンの肩を掴んだまま。
「あの美しいヘーゼルグリーンの瞳……愛らしい子供のような我侭……そして、二人きりの夜に見せる、妖艶な微笑み……」
「バ……バッシュ……」
「わたしは彼がいなければ、生きていけないのだ!」
「じゃあ死ね」
 次の瞬間聞こえた声に、首を回せばそこに立つのは……。
「……バルフレア……」
 静かな怒りをまとうバルフレアは、ミストナック発動直前。それを見た瞬間、ヴァンはバッシュの、手を振りほどいて走り出した。それは本能が危険を察知し、咄嗟に回避を命令したため。そして走るヴァンの後ろで。
「ウザいんだよ! この筋肉馬鹿の妄想アホオヤジが!」
 という言葉とともに、謀逆のアスペクトがバッシュに発動した……。





 その後、最後に融合技、ブラックホールが発動するのを見て、ヴァンは逃げ出した自分の行動が、正しかったことを知った。
 それでもバッシュが気になったため、ほとぼりが覚めた頃戻ってみると、当然ながら倒れているバッシュ。仕方なくレイズをかけてやったが……。
「……ああ……バルフレア……君はミストナックも美しい……」
「……………………」
 息を吹き返すなり呟くバッシュに『……空気を読めないアホの子(自分)と、筋肉馬鹿の妄想アホオヤジ(バッシュ)と、どっちがマシなんだろう……』ヴァンはそう思ったのだった……。

 少年の受難 了
(06.10.09 UP)






少年とは勿論ヴァン。
てか、ウチの(バシュバルの)将軍は本当はディフォルトでこんな奴。
てゆーか、アホ同士でヴァンとは良いコンビを組みそうだ。
そしてバルは突っ込み……お笑いトリオができそうだという結論が出たところで撤収(笑)










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